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EAP、賢く使って 従業員の心の健康を支援 職場や家の悩み、プロと解決

2016/6/9付 日本経済新聞 夕刊

会社などで働く人の心の健康を守ったり、病気になった人を支援したりする「従業員支援サービス(EAP)」が注目されている。企業がサービス提供会社と契約していれば、従業員とその家族は様々な悩みを相談でき、専門家が一緒に対処法を考えてくれる。早めに利用すれば、心の病気の予防効果は大きい。賢い活用法を探った。

「大学に入った娘が2カ月も大学に行っていないとわかったんです。一人暮らしで自宅にこもりきりらしく心配です。どうしたらいいのでしょう」。EAP事業者の相談窓口に、契約するある企業の従業員の妻から一通のメールが届いた。

相談者の話を聞くカウンセラーの大庭さよ氏(東京都千代田区のMPSセンター)

カウンセラーは母親の気持ちをくみながら、娘さんの状態を具体的に聞き取り、対応方法を伝えていく。まずは母親に娘さんに直接会いに行き、生活状態を見て話をよく聞いてあげるよう助言した。

メンタルヘルスの不調が疑われる場合には、医療機関の受診を勧める場合もある。その際には、若い女性が抵抗なく病院に行けるような勧め方も助言する。信頼できる医療機関を紹介することも。相談者は助言に沿って娘の話を聞いたという。これらは数回のメールでやり取りした。

■家族の相談も可

EAPはEmployee Assistance programの略で、メンタルヘルス対策に力を入れようとする企業などが、サービスを提供する外部の事業者と契約し従業員に提供する。中身は契約で決める。従業員本人だけでなく家族からの相談も受ける場合が多い。職場の悩みだけでなく、家庭での困り事がストレスになっていることが多いからだ。

もちろん、一定規模の企業には社内に産業医やカウンセラー、保健師などがいる。ただ「上司はもちろん、産業保健スタッフといえども社内の人に『家族や個人的な悩みは相談しにくい』という人は多い」と神田東クリニック(東京・千代田)のEAP部門であるMPS(メンタルヘルス・プロフェッショナル・サポート)センター(同)の大庭さよセンター長。

多い相談の一つに会社での人間関係があるが、やはり社内では相談しにくい。また「心の不調を抱えていることを会社の上司や人事労務の人に知られたくないという人は多く、外部のEAPサービスが利用される理由になっている」と大庭センター長。

メールや電話による相談の費用は会社持ちなので手軽に受けられる。対面カウンセリングは医療機関などでは、1回1万円前後というのが相場だが「3回あるいは5回まで会社負担で本人は無料というケースが多い」という。

悩みには様々な原因があるが、最適のカウンセラーを選んでくれる。例えば大庭センター長は臨床心理士とキャリアカウンセラーの資格を持ち、キャリアをどう積み上げるかといった悩みもしっかり受け止める。

一般社員だけでなく、管理職からの相談も多いという。職場で何度もミスやトラブルを起こす社員への対応やうつ病などで休職し、職場復帰した社員にどう対応すればいいかといった内容だ。複数の企業と契約しているEAP事業者の強みを生かし、他社のデータも参考に相談にのる。

■伝える手法訓練

EAPの役割はメンタルヘルスの悪化を防ぐだけではない。ジャパンEAPシステムズ(東京・新宿)は「社員が抱える心理面の問題を取り去り、士気や生産性を高めるようなトレーニングも実施する」(松本桂樹社長)という。

例えば同社は、相手を最大限尊重しつつ自分の考えや気持ちを伝えるアサーションという手法の訓練を行う。「自分の意見をうまく言えず、いつも損をしてしまう」という人や、その逆で「強引だ」と言われる攻撃的な人にコミュニケーション力を高めてもらう。

昨年12月に従業員のストレスチェックを企業に義務づける制度が始まった。心の不調を未然に防止するため、自身で何がストレスかに気づいてもらったり、ストレス原因となる職場環境を改善したりすることが主な目的だ。

ストレスチェック制度のスタートをきっかけに、EAPの利用も急速に増えそうだ。

◇     ◇

■自殺リスク察知に効果

EAPは米国でアルコール問題を抱えた従業員への支援プログラムとしてスタート。1990年代後半以降、日本でも広がった。日本EAP協会会員は24事業者だが、非加盟の事業者も増えている。

きっかけは、労働省(現・厚生労働省)が2000年に発表した「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」。(1)労働者によるセルフケア(2)管理監督者によるケア(3)産業医など社内の産業保健スタッフ等によるケア(4)社外機関によるケア――の4つが必要だとされた。EAPは(4)にあたる。

神田東クリニックは、相談内容から、従業員が自殺するかもしれないと察知して緊急対応した92例を対象に、どういった相談経路でそれが分かったかを調べた。EAPのメール相談経由が22件でトップ、次いでEAPの電話相談が18件。産業保健スタッフが16件、「上司」からは4件だった。気軽に利用できる社外機関が担う役割は大きい。

神田東クリニックの高野知樹院長は「企業内の状況を把握しやすい産業保健スタッフとEAP事業者が連携できれば心のケアはうまくいく」と話す。ただ、中には精神科医などとの連携が不十分な事業者も。「企業は事業者に丸投げするのではなく、実力を見極めて付き合うことが大事だ」(高野院長)

(相川浩之)

[日本経済新聞夕刊2016年6月9日付]

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