佐村河内氏に迫る「FAKE」を監督 森達也さん
ゴーストライター問題で渦中の人となった作曲家、佐村河内守氏に迫るドキュメンタリー映画「FAKE」(公開中)を撮った。
問題発覚から半年後の一昨年夏、佐村河内氏に初めて会った。メディアのバッシングでどん底にある同氏を「絵になる男だ」と思った。初めは撮影を拒まれたが、こう言って口説いた。
「あなたの名誉回復のための映画は撮りません」
「自分の作品のために、あなたを利用します」
映画は自宅マンションにこもる佐村河内氏を撮り続ける。自分を取り上げたテレビ番組を見る、妻と夕食をとる、テレビ局が出演交渉に来る……。
森は難聴について佐村河内氏に「信じるか」と問われ、「信じないと撮れない」と答える。ある時は逆に「守さんは僕を信用してるの」と問う。「信じるなら全部信じる」という作曲家に「僕は信じるふりをしてたかもしれないですよ」と返す。二人とも揺れている。
「信じる時もあれば、隠していると疑う時もある。それは他の人も同じだし、僕も同じ。どこかで嘘をついている。1か0ではない」
「僕が面白いと思う被写体は自分が揺れることができる被写体。自分も引き裂かれながら撮っている」
単独の監督作は事件後のオウム信者を追った「A2」以来15年ぶり。「メディアの市場原理への従属は、より露骨になった」と見る。
「白か黒か。右か左か。階調に興味がない」。オウム事件や9.11を契機に不安と恐怖が集団化を促した。「異物を排除し、共通の敵を見いだす。号令をかける強い政権を求めている」
だからメディアに描けないことを描く。「映像は言葉よりあいまいさを残せる。見る側が考えてくれる」
〔日本経済新聞夕刊2016年6月8日付〕
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