梅雨の接客「私流」 傘預かり乾かす/タオル手渡す スムーズに商談つなげる

梅雨入りしたこれからの季節、外を歩けば傘を差していても体はぬれてしまいがちだ。会社や店舗で、そんな状態の取引先や顧客を迎える人は多いだろう。来客に備えて冷えた体を気遣う温かい飲み物や、タオル地のハンカチを用意するなど、雨の日ならではの接客方法や気遣いについてまとめた。
運転席に駆けつけ傘を広げてお客をもてなすレクサス富士の竹内さん(静岡県富士市)

「いらっしゃいませ。傘をお使いください。お隣の方もどうぞ」。レクサス富士(静岡県富士市)で接客を担当する竹内真規子さん(40)は4月下旬の大雨の日、車が店に入り、屋根のない駐車場に止まったのを確認すると、傘を2本持って車の運転席側に駆けつけた。ドアが開くと同時に傘を広げ、もう1本を助手席の女性に差し出す。

同店に勤務して11年の竹内さんは、ショールームの受付がメーンの仕事だ。常に外を注意深くうかがい、車が来ると同時に乗車人数を把握する。この日も、乗っているのが中高年の男女2人と見届け、傘を2本持って走った。1週間後、男性は新車を契約。竹内さんは上司から、傘でのもてなしが購入の決め手になったと耳打ちされた。

これから梅雨本番を迎える。雨の中の来客へのもてなしでは、まず相手の服への気遣いが必要だ。傘を渡す方法以外では、あらかじめ少し大きめのタオル地のハンカチを用意し、「使ってください」とさりげなく差し出す人もいる。

茶の温度に気配り

ぬれた傘に、細かい配慮をしている人もいる。大手文具メーカーの男性営業担当者は昨年、取引先の商店主が新製品の発表会で来社した際、ぬれた傘を預かり、発表会の間、職場の邪魔にならない場所で広げて乾かした。店主は好感を持ち、取引にも好影響があったという。

顧客を迎えた後は、商談に進むが、この商談中、相手が気持ちよく過ごせるようにする、細かな気遣いも必要だ。基本となるのは、雨露にぬれるなどして冷えた体が温まるよう、上手に飲み物を出すことだろう。

介護施設大手、生活科学運営(東京・港)で、施設への入居を検討中の高齢者や家族に対応する「関東入居相談室」に所属する大町渉さん(24)は、梅雨時に出す煎茶の温度を、普段より10度ほど高い80~90度と熱めにしている。ポットから湯を一度湯飲みに注ぎ、それを急須に入れ替え、改めて湯飲みに注ぐまで90秒ほどだ。

実は大町さんの職場のスタッフ10人は全員、煎茶の入れ方を静岡の専門家から学んでいる。きちんとした対応のノウハウが職場で共有化されているわけで「相談がスムーズに進む」と大町さん。高齢者は、出された茶の温度や、相手の立ち居振る舞いに敏感な事が多い。高齢者に向けた接客ノウハウは、一般向けにも十分応用できるだろう。

人によっては、梅雨の蒸し暑さに閉口して、冷たい飲み物が欲しい人もいる。帝人のフィルム事業本部営業担当の阿部真由美さん(43)は、そうした要望を見越して「冷蔵庫で氷を作っておき、熱い飲み物も冷たい飲み物も両方出せるようにしておく」と話す。細かなことから「帝人のファンを増やしたい」というのが阿部さんの動機だ。

前向きな声がけを

雨の日の会話に、ちょっとしたスパイスを加えることもおすすめだ。

「お足元の悪い中、ありがとうございます」「気をつけてお帰りください」。これだけなら送迎時の標準的な言葉掛けに終わってしまう。しかし「庭のホテル東京」を運営するUHM社長室長でビジネスマナーに詳しい石井孝司さんは「よく降りますね。おかげで断水の心配がなくなりますね」など、雨をポジティブにとらえた言葉がけを足すことを心がけている。

この時に「梅雨は気分がめいりますね」と言ったのでは、相手も気分が暗くなる。梅雨に対してポジティブな言葉をかけられる意外性は、相手の気持ちを前向きにするだろう。

[日本経済新聞夕刊2016年6月6日付]

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