相次ぐ経営トップの交代、「突然」が増えたのはなぜ?企業統治重視、指名委で議論

有名企業で社長や会長が突然交代するというニュースが多いわね。なぜなのかな。社内でもめているケースもあるみたいだけど、いったい何が起きているの。

企業の経営トップ人事について、船戸里香さん(25)と大住友乃さん(22)が中山淳史編集委員の話を聞いた。

最近、突然の経営トップ交代や、人事を巡る混乱が多いですね。

「セブン―イレブン・ジャパンやイトーヨーカ堂を傘下に持つセブン&アイ・ホールディングスでは、今月26日、カリスマ的な経営者だった鈴木敏文会長が退任しました。鈴木氏がセブン―イレブンの井阪隆一社長を退任させようとしたのに対して、社外取締役などの賛同を得られず、取締役会で否決されたことから、鈴木氏が突然、すべての役職から退くと表明して大きなニュースになりましたね。結局、井阪氏がセブン&アイの社長に就任し経営を担うことになりました」

「今月はほかにも、セコムの取締役会が社長と会長を同時に辞めさせるというニュースがありました。個人情報漏洩問題で業績が悪化したベネッセホールディングスは、わずか2年前に『プロ経営者』として招いた原田泳幸会長兼社長の退任を発表しました。さらに少し遡ってみると、昨年は大塚家具やロッテで、創業経営者一族の間に内紛が起き、経営権やトップ人事を巡って激しく対立するということも起きています」

なぜ、こんなに相次いでいるのでしょうか。

「企業経営のチェック機能を高めるコーポレートガバナンス(企業統治)を欧米同様に重視する必要があるという考え方が日本でも広まり、企業経営の進め方や、経営者の選び方が変わってきたことが背景にあります。かつての日本企業では、社長の最大の仕事は『次の社長を決めること』と言われていました。しかし社長自身が自分の後継者を決めていると、社長を辞めた後も会長として実権を握り続けやすいように、自分より能力の劣る人間を次期社長に選びかねません」

「『これではまずい』という機運が高まり、会社を活性化するためには米国型の企業統治の仕組みを取り入れる必要があるという議論が広がりました。2006年に施行された会社法という法律で、経営を監督し意思決定する取締役会の役割を明確にするなど改革が始まりました。さらに、東京証券取引所は昨年6月から上場企業に対して『コーポレートガバナンス・コード』という指針を適用し、会社から独立した社外取締役を2人以上選任するよう求めています」

社長の選び方は具体的にどう変わってきているのですか。

「社長など経営陣の人事を議論するための『指名委員会』を設置する企業が急増しています。指名委をつくった上場企業は5月17日時点で475社あり、2014年の約4倍に達しています。社長が自分の後継者を自分で決めるのではなく、指名委での議論を経て人事を決めることで透明性を高めようという狙いです」

「日本企業の指名委には2種類あり、一つは企業統治の面で厳しい条件のある『指名委員会等設置会社』が法律に基づいてつくるもので、指名委が決めた取締役人事案には法的な拘束力があり、委員の過半数を社外取締役にすることも義務付けられています。もう一つは任意に指名委を設ける場合で、こちらには法的な拘束力がありません。ただ、セコムが社長と会長を辞めさせることを決めたのは任意の指名委での議論がきっかけでした。セブン&アイで鈴木氏と社外取締役の意見が対立したのも任意の指名委での議論でした」

透明性を高める仕組みがかえって混乱を招いているのですか。

「多少ゴタゴタすることがあったとしても、透明性が確保されたほうがよいといえるのではないでしょうか。かつてのように社長が自分の後継者を決めるやり方では、仮に何か問題が生じたとしても表ざたにならなかったケースが多いかもしれません」

「それに、日本企業で指名委の設置が急増したのは昨年6月のコーポレートガバナンス・コード適用がきっかけで、まだ始まったばかりであり、いわば『勉強期間中』です。これから少しずつ経験を積んでいけば、指名委で経営トップを決める仕組みも徐々に定着して、うまく運用できるようになっていく可能性が高いでしょう」

■ちょっとウンチク
同族経営に人事の混乱目立つ
トップ人事のごたごたは同族経営、あるいは創業者が影響力を残す企業で起きやすいのが最近の特徴だ。昨年以降で言えば大塚家具やロッテ、セブン&アイ・ホールディングスと、みなそうだ。
大塚家具では経営権を争う親子が劇場型の委任状争奪戦を演じた。流通業はもともと顧客が株を買う「ファン株主」が多く、劇場型になりやすい、との指摘もある。
ごたごたが起きれば株価が下がる。あおりを受けるのが少数株主であるのは言うまでもない。米国では全般に創業一族などの大株主が企業価値の毀損につながるような動きを慎む傾向があるという。少数株主を守る配慮が長い歴史の中で培われた可能性がある。
だが、場合によっては動く。米フォード・モーターではかつて、消費者や従業員の反発を買った執行のトップを、議決権を多数持つ創業一族が先頭に立って解任させたことがあった。出ていかなければ状況は悪化していた。米国では創業一族の存在も重要な企業統治の要素だと見なされているようである。
(編集委員 中山淳史)
■今回のニッキィ
船戸里香さん 情報システム会社に勤務。中学・高校と硬式テニス部に所属し、大学でもテニスサークルで活動した。「今も家族と一緒にテニスを楽しんでいます」
大住友乃さん 情報システム会社に勤務。趣味はジョギング。「走っている間はほかのことを何も考えずに、自分の内面と向き合えるように感じるのが魅力です」

[日本経済新聞夕刊2016年5月30日付]

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