カストロとフランコ 細田晴子著独特の関係築いた2つの国家

2015年7月、キューバと米国は54年ぶりに国交を正常化した。本書は、外交官から研究者の道に転身したスペイン・キューバ史の専門家による時宜を得た出版である。本書の中心テーマは、「スペインから見たキューバ・スペイン関係」である。

(ちくま新書・820円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

経済面での実利的な関係のみならず、スペインとキューバの文化的・歴史的紐帯(ちゅうたい)を重視するところが特色である。スペインの世論調査によれば、ラテンアメリカの中でスペイン人が親近感を持つ国は、アルゼンチン、メキシコに次いでキューバが3番目だそうだ。1960年代のスペインの対ラテンアメリカ輸出の3分の1がキューバ向けであったことに見られるように、経済的な関係も深かった。現在スペインはカナダと並んでキューバの主要投資国であるが、その裏には、本書で示されるような特別な関係がある。

興味深い指摘の一つは、キューバとカトリック教会、スペインおよびバチカンとの関係である。カストロは革命成功後の61年に、キューバのカトリック教会で働いていたスペイン人聖職者たちを全員、スパイの疑いで国外追放した。それ以降ソ連崩壊まで、マルクス主義の無神論を忠実に実行し、カトリックなどの宗教を迫害した。カトリック迫害が頂点に達していた70年代に、キューバに残ったキューバ人聖職者たちをサトウキビ刈りなどの強制労働に送ったことを、評者は彼らから直接聞いた。

本書によれば、当時スペインは、フランコ政権の下でカトリックが国教となっており、カトリックを尊重するよう働きかけた。スペインの努力は結局実らず、キューバは75年までスペインから大使を召還し続けたという。

他方バチカンは、共産圏の中で唯一キューバと外交関係を維持し続けたと本書は指摘する。米国とキューバの国交正常化交渉開始にあたっては、フランシスコ法王をはじめとしたバチカンが仲介者として大きな役割を果たしたとされる。キューバ革命の初期から現在まで、さまざまな対立がありながらも、関係を維持してきた歴史と信頼があるからできたことであろう。

日本ではスペインとラテンアメリカの関係についてわかりやすく説明する本は少ない。欧州の中で独自の地位を占めたフランコ政権下のスペインが、ラテンアメリカの中でこれも独特な地位を占めるキューバと、実利的にも文化的にも、あるいは経済的にも人的にもどのような特色のある関係を築いてきたかを理解するのに、本書は格好の道案内となるだろう。

(アジア経済研究所主任研究員 山岡 加奈子)

[日本経済新聞朝刊2016年5月29日付]

カストロとフランコ: 冷戦期外交の舞台裏 (ちくま新書)

著者 : 細田 晴子
出版 : 筑摩書房
価格 : 886円 (税込み)

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