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最近、「パナマ文書」のニュースをよく目にするわね。タックスヘイブン(租税回避地)に関係した文書らしいけど、いったいどういうものなのかな。
 タックスヘイブンについて、斉藤嘉子さん(53)と斉藤裕子さん(31)が太田康夫編集委員の話を聞いた。

「パナマ文書」が大きなニュースになっていますね。

「中米の国、パナマにある法律事務所モサック・フォンセカから流出した膨大なデータが『パナマ文書』です。世界各国の企業や個人富裕層がタックスヘイブンに会社を設立する際、この法律事務所に事務手続きを依頼していました。設立された会社のほとんどは実際に事業をしているわけではない『ペーパーカンパニー』で、約21万社に及びます」

そもそもタックスヘイブンって何ですか。

「タックス(Tax)は税、ヘイブン(Haven)は『避難所』を意味する英語です。特徴は、まず法人税などの税金がまったくかからないか、税率が極めて低いことにあります。また、会社を設立する手続きが簡単だったり、様々な規制が緩かったりします。さらに、金融機関に口座を持っている人の情報が秘密にされていて、誰がどれくらい資産を持っているか極めてわかりにくいことも多いのです」

「企業は税率の高い国での利益を圧縮し、税率の低いタックスヘイブンに設けた会社に多くの利益をあげさせて、トータルで払う税金を減らすことが可能です。富裕層がタックスヘイブンに設立したペーパーカンパニーを通して海外の資産や企業に投資すれば、税金の額を減らせる場合もあります」

「口座の情報を税務当局に対して秘密にできれば脱税も可能かもしれません。テロ組織や麻薬組織、反社会的組織などのマネーロンダリング(資金洗浄)に使われることもあります。このため、最近ではタックスヘイブンに対する監視も強まっていて、実態のないペーパーカンパニーの場合は本国で合算課税する国も増えています。口座情報の秘密を守ってきたスイスの銀行も違法行為があれば、捜査機関などの求めに応じて口座情報を教えるようになっています」

「パナマも代表的なタックスヘイブンの一つで、日本を含め世界各国の海運会社が使う船をパナマで登録していることはよく知られています。英領ケイマン諸島などのカリブ海の島々や、アジアの香港やシンガポール、欧州のモナコやリヒテンシュタインなどもタックスヘイブンです。いずれも税率を低く抑える代わりに金融業を発展させたり、会社設立の登記料を稼いだりすることを目的としています」

なぜ今これほど大きな騒ぎになっているのですか。

「以前から、欧米では財政の悪化が進んでいるのに、タックスヘイブンを利用する世界的大企業が高収益をあげながら本国で払う税金を安く抑えていることが問題になっていました。世界的に経済格差が拡大し、富裕層の脱税や節税に対する反発も強まっています。そんな中で、これまでベールに包まれていたタックスヘイブン利用者の具体的な名前がパナマ文書で暴かれたことが大きいのです」

「中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領など多くの世界の政治リーダーの関係者の名前が登場したことも注目を集めた一因です。そうした脱法行為を批判していた英国のキャメロン首相の関係者の名前が登場したこともあり、大きな騒ぎになっています」

「パナマ文書で名前が挙がった日本企業の多くは海外事業の拡大などが目的で『節税』目的ではなかったと説明していますが、日本の税務当局も脱税や違法行為がないか調べることになるでしょう」

タックスヘイブンを使うこと自体は問題ではないのですね。

「日本も経済活性化のために法人税率を引き下げようとしていますし、税率をどれくらいに設定するかは本来、その国の自由です。税金が安い国があれば、そこに会社を設立したり、個人が移住したりすることも合理的な判断です。問題なのは、タックスヘイブンに住んでいない人や海外の企業が不当な税逃れをすることであり、不正をしても実態を覆い隠せる仕組みが維持されてきたことです。実態が明らかになり、タックスヘイブンの不透明さが改善されれば、パナマ文書には大きな意味があったと評価できるでしょう」

ちょっとウンチク


パナマで信用供与、邦銀が最大
 租税回避の歴史は古い。紀元前のギリシャで無税のデロス島は、輸入品に税金を課していたアテネの租税回避地になっていた。パナマでは1919年に米石油会社の節税のため、外国船舶の登録を開始。27年から米銀が無税・匿名会社の設立を手伝い、非居住者向けのオフショア金融が始まっている。
 現在パナマには40万社超の会社が登録。そうした会社向けの信用供与(融資と債券保有)が国別で最も多いのは日本の銀行で、残高は350億ドルに上る。
 邦銀のビジネスがさらに活発なのは英領ケイマン諸島。5100億ドルに上る信用供与で、特別目的会社を利用した証券化商品組成などの金融活動を支えている。3メガバンクはケイマンに支店のほか、合計50以上の関連会社をもつ。
 タックスヘイブンを使えば税金などコストを抑えられ、効率は上がる。一方で事務手数料は現地に落ち、日本の空洞化、税収減要因になる。メガバンク側は「法律にのっとってタックスヘイブンを使っている」と説明している。
(編集委員 太田康夫)

今回のニッキィ


斉藤裕子さん 損害保険会社に勤務。昨年4月の異動で、英語を使う仕事が増えた。「NHKの英語講座などを利用して、もう一度しっかり勉強したいと思います」
斉藤嘉子さん 昨年、病気になったのをきっかけに、今年春から大学院に入学。「患者の精神的なサポート体制をどう整備していけばよいのか研究しています」
[日本経済新聞夕刊2016年5月23日付]

ニッキィの大疑問」は月曜更新です。次回は6月6日の予定です。

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