涙を流さずタマネギ切るには 調理前、冷蔵庫に1時間
涙流さずタマネギ切るには
タマネギを切るときに、水中メガネをつけたり、鼻に栓を詰めたり。涙を出さないよう予防する人は多い。それはそれで有効だが、とても人前には出られない姿だ。そもそもどうしてタマネギを切ると涙が出るのだろう。
「タマネギを切ったときに発生する硫化アリルが、目や鼻の粘膜を刺激するから」。管理栄養士で「食卓から家族のパフォーマンスを支える 旦那さんごはん」(ワニブックス)の著者、松村和夏さんは涙のワケを教えてくれた。
硫化アリルはタマネギの独特な臭いや辛みのもとになる成分だ。ニラやニンニクにも含まれている。健康効果が高く、食欲を増進させ、血液をさらさらにするといわれている。疲労回復に役立つビタミンB1の吸収を促すので、健康のためにも積極的に摂取したい成分だ。
涙を流さずタマネギを調理するには、硫化アリルの特徴を押さえておくといい。松村さんは「重要なのは温度管理」と指摘する。硫化アリルは揮発性が高く、温度変化に敏感だ。「冷蔵庫で1時間、冷凍庫なら15分ほど冷やしてから切ると発生が抑えられ、涙が出にくくなる」。タマネギは湿気に弱いため、常温で風通しの良い場所での保存が基本だが、これからの季節は冷蔵庫も活用したい。
電子レンジで少し温めてから切るのも有効だ。硫化アリルは熱に弱いからだ。涙が出にくくなる一方で「健康成分も一緒に壊れてしまう」(松村さん)。温める場合は加熱しすぎないよう注意しよう。
硫化アリルは水に溶け出す性質があるので、水にさらすのも効果がある。もちろん、長時間さらすとその分、健康効果も期待できない。さらす場合は短めにしておきたい。
包丁は軽く握り押し出す
冷やしたり水にさらしたりといった手法は、涙対策として一定の効果がある。だが実は、もっと有効なワザがある。包丁の使い方だ。
そもそも硫化アリルが飛び出すのは、切るときに細胞がつぶれてしまうから。ハウス食品グループ本社によると、「細胞が壊れることで、タマネギに含まれる催涙成分合成酵素とアミノ酸が結びつき、催涙成分が発生する」という。細胞を壊さないよう切れば、催涙成分の発生を抑えることができるのだ。
タマネギを切るとき、トントントンとリズミカルな音が響いていないだろうか。いかにも料理上手な風情だが、実はこれ、涙が出る包丁使いの典型だという。
ロジカルクッキングを提唱する水島弘史さんによると、リズミカルな音は「余計な力が入って素材を押しつぶすように切っている証拠」。包丁使いを習得すれば、タマネギを切っても涙が出ることはないという。確かにプロの料理人がタマネギを切りながら涙を流すのは見たことがない。
正しく使うにはどうしたらいいのか。水島さんは「構え方が大事」と助言する。右手で包丁を使う場合、まずは右足を半歩後ろに引く。斜めに構えることで、包丁とまな板が直角に交差するようになる。包丁は軽く握り、親指と人さし指はそっと添える程度にしておく。脇を締め、背筋はすっと伸ばす。姿勢が悪いと余計な力がかかりやすくなるので注意が必要だ。
包丁には「スイートスポット」といわれる部分がある。刃先から数センチほどの場所で、力を入れなくても刃がすーっと入っていくポイントだ。ここにタマネギを当て、斜め下に30度の角度で力を入れずに押し出す。いったん刃を元の位置に戻し、またすーっと押し出す。これを繰り返すことで素材をつぶさず切ることができる。ただ、慣れるまでは時間がかかるかもしれない。
包丁使いを意識すると「タマネギに限らず素材の香りや水分、うまみを逃がすことなく調理できる」(水島さん)。野菜の煮崩れを防ぐこともできる。ニンニクなど香りを引き出したい場合は、逆につぶし切りが効果的だ。正しく丁寧な調理こそが一番の料理のスパイスとなりそうだ。
(松原礼奈)
[日経プラスワン2016年5月21日付]
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