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小窓からのぞく風景ジオラマ、極小の空間に再現 箱庭アート作家 安田誠一

2016/5/19付 日本経済新聞 朝刊

「風景の出前いたします 箱庭屋」。こう名刺に記す私が届けるのは、世界の名所を再現した極小のジオラマだ。縦6センチ、横・奥行きが20センチの小箱に収まっている。百貨店などでの催しに出前をする際は、特製の岡持ちに5つを入れて運ぶ。

カナダのロッキー山脈(写真上)。岡持ち前面の小窓からのぞくと風景が広がる

一般的なジオラマは上から眺めるが、私の小箱は前面に目の幅ほどの小窓があり、双眼鏡のようにのぞく。そこに広がるのは、青い湖に山並みが映えるカナダのロッキー山脈や、明清時代の街並みを残す中国・周荘の水郷風景。まるで目の前に出現したかのようなパノラマに、多くの人が「これは何だ!」と驚く。

隙間に独特のリアル感

子供の頃から私は少し変わっていた。男児の模型好きは多いが、私は作ったジオラマを戸棚に入れ、少し開けた扉の隙間から見るのを好んだ。見えにくい環境に置いて作り物を眺めると、独特のリアル感が出る。それが面白かった。この童心が39歳の時、不意に蘇(よみがえ)った。

2005年、長男の通う幼稚園で親子工作に参加。皿の空き箱を手にして、ひらめいた。「中に風景の模型を入れ、側面からのぞけるようにしよう」。親子工作なのに子供に「見といて」と告げ、1人で製作に没頭した。

約2時間後、粘土で運河の街を模した作品ができ、予想外のことが起きた。子供たちがワッと群がり、次々と手に取り真剣に見てくれた。私は感激に震えた。「箱庭アート」誕生の瞬間だった。

振り返ると、回り道の人生だった。大学卒業後、非日常の世界に携わろうと、関西の遊園地に就職。新しい試みを取り入れたかったが、集客不振に陥る会社にその余裕はなく、自分の無力さを感じて辞めた。その後、大阪市の木工所で家具職人になったが、注文通りにつくる作業に物足りなさを感じるようになった。

私は、自分だけの創意工夫が生かせる仕事で、他人にトキメキを与えたかった。箱庭アートを極めようと、仕事の後、創作に励んだ。粘土や木片を着色し、写真を参考に美しい風景を再現する。困難を極めたのが奥行きの表現だった。

奥行き表現に試行錯誤

透視図法や遠近法を独自に学んだが、奥に行くに従って徐々に対象物を小さく描く絵画の手法は、立体の世界では通じなかった。極小空間に広がりのある世界を詰め込む――。相矛盾した要素を抱えるコンセプトを実現するには、ひとり試行錯誤するしかなかった。

森の風景であれば「この地点で木のサイズを一気に小さくしよう」「奥行き感の要となる木は、ここに配置するのがベスト」などと、箱の小窓を何十回、何百回とのぞきながら試した。どの角度から眺めても破綻せずに奥行きを出すのは至難の業で、1本の木の置き場所を決めるのに1週間かかることもザラだった。

一番手前の風景に視界を遮る巨木などを置き、額縁効果で奥側に開放感を持たせる。箱に入れた鏡に像を反転させて広がりを確保する、といった方法も編み出した。

そうして形にした箱庭アートが「間違っていない」と確信したのは07年だ。イギリスの湖水地方やモルディブのマーレ環礁など、五カ国の名所を再現した作品が完成。それを岡持ちに入れた「風景の小箱」が東急ハンズ主催の「ハンズ大賞」準グランプリに輝いた。

ボトルや竹筒で新作品

箱庭アート作家 安田誠一さん

12年には木工所を退職し、製作に注力することに。ワインボトルや竹筒に国内外の風景を入れ、開け口から見る新シリーズも手がけた。14年には初の個展を京都市と東京で開催。今秋も東京で2回目の個展を予定している。ただ、このアートは多作できない。完成品は50作ほど。百貨店の催しに呼ばれるなど仕事は増えたが、それだけでは生計が立たない。

そこで今春、開くと絵が立体的に飛び出す「ポップアップカード」の箱庭アート版を作り始めた。魅力を気軽に楽しんでもらえる作品を、手ごろな価格で発表したい。製作資金を広く募るクラウドファンディングも活用する。挑戦は続く。

(やすだ・せいいち=箱庭アート作家)

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