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フランスやベルギー、トルコなど世界のあちこちで大規模テロが相次いでいるわね。なぜこんなに増えたんだろう。日本は大丈夫なのかな。

大規模テロの問題について、山口瑞恵さん(41)と菅原直美さん(38)が高坂哲郎編集委員の話を聞いた。

なぜ大規模なテロが頻発しているのですか。

「これだけ大規模な事件が相次ぐのは、テロが起きる3つの要素である『動機、手段、機会』がかつてなくそろっているという状況があります。まず『動機』ですが、近年のテロ事件の大半はイスラム過激派によるものです。彼らは、自分たちが理想とするイスラム国家を樹立するためには暴力に訴えても構わない、という過激思想をもっています。ただ、こうした過激思想そのものは実は20世紀前半からありました」

「近年、状況が変わったのはインターネットが普及し、テロリストが『手段』を手にしやすくなったためです。テロリストはネットを通じ爆弾の製造方法を入手したり、仲間を集めたりすることが簡単にできるようになりました」

「各国の治安当局は警備を強化していますが、すべての施設を厳重に守ることは物理的に不可能なため、相対的に警備の緩い公共空間や交通手段、いわゆる『ソフトターゲット』がどうしても存在します。航空旅客の増加などでテロの『機会』も増えています」

テロは今後も続きそうですか。

「残念ながら収束する兆しが見えません。何の罪もない人々を巻き込むテロ行為は決して許されません。米国を中心とする有志連合は中東で過激派組織『イスラム国』(IS)への攻撃を続け、その支配地域は狭まりつつあります。ISはそれに反撃する狙いで、欧州に住むISのシンパを使って、フランスやベルギーなどで事件を起こしています。今後もこの傾向は続きそうです」

「最近のテロ組織の傾向として危惧されるのは、携帯電話を頻繁に買い替えるなどして当局の通信傍受をくぐり抜けようとするなど手口の巧妙化が認められることです。ISは最近、東南アジア諸国への浸透も強めています」

日本は大丈夫でしょうか。

「油断はできません。日本では今月下旬に主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)、2020年に東京五輪と大きな行事が続きます。こうした行事は過激派にとって格好の標的となります。同じテロ事件を起こすにしても、大きな行事にぶつけた方が世界の注目を集め、人々を恐怖に陥れる効果を大きくできるからです」

「日本の警備当局は現在、テロリストを日本に入れない水際対策、テロを起こさせる隙を与えないための警備強化、海外に居住する邦人や日本人旅行者への注意喚起などを重層的に進めています。予防だけでなく、万一テロが起きてしまった場合に被害を最小限に食い止めるための訓練も、警察や防衛省、医療機関など関係機関が連携して進めています」

「ただ、難しい問題もたくさんあります。例えば、日本政府は外国からの観光客を増やす施策を進めていますが、そうなるとテロリストが観光客のふりをして入国するリスクも高まります。テロ関係者に関する情報を他国と交換するには、こちらも手持ちの交換材料をもっていなければなりませんが、日本の情報収集体制は整備途上で、米欧主要国がどこまで情報交換に本気で応じてくれるのか懸念が残ります。無数にあるソフトターゲットを守るには、国民も当事者意識をもって不審者・不審物の通報に臨む必要があります」

万が一、国内や海外でテロに遭遇した場合、どうしたら身を守れるでしょうか。

「海外邦人安全協会の小島俊郎副会長は、近くで爆発音や銃撃音などが聞こえた場合の対処法として、伏せる、逃げる、隠れる、の3つを覚えておいた方がよいと話しています。伏せれば爆弾の破片を浴びたり、銃撃を受けたりするリスクが減ります」

「爆発音がした場所を好奇心からのぞきに行ったり、写真を撮るため現場近くにとどまったりすることもよくありません。テロ実行犯がわざと時間をずらして複数の爆弾のタイマーをセットし、最初の爆発後に集まってきた警官や群衆を2発目で殺傷しようという手口があるためです。とにかく早く現場を離れることです」

ちょっとウンチク


社会で孤立させないことが必要
 親の国際結婚などで日本にやって来たものの、日本語に不慣れなために学校の授業についていけない子どもたちに、ボランティアの日本人が個人指導などの形で支援する活動が全国各地で展開されている。そうした地道な助けを受けてこの春、志望校に進学できた子どもたちも少なくないようだ。
 ただ、ある首都圏のボランティアは「日本語や文化の違いの壁に加え、複雑な家庭の事情や貧困も重なって、指導を受けに来ることさえできない子どもたちも多いようだ」と語る。
 欧州や米国などで頻発するテロの実行犯の中には、社会に溶け込めない疎外感が憎しみに転じ、凶暴化した移民たちがいた。
 テロ対策というと、インターネットの監視や多くの警察官を動員しての警備が思い浮かぶ。そうした取り組みに加え、社会の中に孤立した外国出身者をつくらないよう手を差し伸べる、人の優しさに裏打ちされた営みも、長期的にみれば平和な日本をつくるのに欠かせないものとなると思われる。
(編集委員 高坂哲郎)

今回のニッキィ


山口 瑞恵さん コンサルティング会社に勤務。国内外への旅行が趣味。「最近は1泊2日で北海道へ行くなど、毎月のように『弾丸ツアー』へ出かけています」
菅原 直美さん 駐車場管理会社勤務。東京ディズニーシーのキャラクターグッズ集めにハマっている。「昨年10月に年間パスポートを購入して10回以上行きました」
[日本経済新聞夕刊2016年5月16日付]

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