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少女たちの明治維新 ジャニス・P・ニムラ著 米国生活と帰国後の文化摩擦

2016/5/15付 日本経済新聞 朝刊

明治4年(1871年)、岩倉具視を団長とする遣欧米使節団に、幼い5人の少女たちが同行し、アメリカで留学生活をおこなったことはよく知られている。本書は、そのなかの山川捨松、津田うめ、そして永井繁の3人に焦点をあてる。厖大(ぼうだい)な史料に目を通し、彼女たちの生い立ちから留学生活、そして日本に戻ってきてからの生活を描くのだが、浮上するのは、外国で教養と語学力を身につけたエリート女性の姿である。

(志村昌子・藪本多恵子訳、原書房・2500円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

アメリカで地域の名士と交流を持ち、帰国後にも伊藤博文ら政界の重鎮たちと接点を有し、繁は海軍軍人と結婚し、捨松もまた大山巌・夫人となる。うめは、念願の女子教育機関「女子英学塾」(現在の津田塾大学)を創り、(著者のことばを用いれば)彼女たちは「ワーキングマザー」「侯爵夫人」「独身の教育者」として活動した。しかし、結婚相手をいくども紹介されるなど、日本社会の同調圧力が強調され、その志が容易には貫けなかったこともあわせ記される。

このとき、彼女たちのたどった軌跡のかかる筋道は、多分に著者の視点と方法によるものである点も見逃すべきではない。というのは、明治日本の上流社会のなかでうまく振る舞えなかったあとの2人は、本書ではほとんど言及されない。また、少女たちは、最初にアメリカでの異文化接触に苦労し、しかし、そこで多くを吸収したがゆえに、今度は帰国によって、再度の文化摩擦を経験することとなった。だが、著者は(おそらく史料的な制約もあって)前者の苦難は論ぜずに、後者に苦労する姿を強調する。双方の文化摩擦に苦労したはずだが、欧米化した教養が、日本にはそぐわなかったという認識がうかがわれるのである。

本書では、こうして獲得した欧米の「知」を受け入れない日本の姿が強調される。しかし、彼女たちが直面し圧力を受けたのは、旧弊な日本社会という以上に、アメリカをも含めた近代の社会そのものであり、近代の家父長制であったのではなかろうか。5人の女性たちの苦闘は、日本にとどまらない近代の現実に対するものであったのではなかろうか。

この点で、著者が、平塚らいてうを新しい世代の女性として位置づけることは、しっかりと女性史の骨格を把握していることを示す。本書の原題「侍の娘たち」もその文脈に基づいており、第一世代の女性たちの苦闘が記されたのである。となれば、本書の日本語タイトルは、これでよかったろうか。

(日本女子大学教授 成田 龍一)

[日本経済新聞朝刊2016年5月15日付]

少女たちの明治維新: ふたつの文化を生きた30年

著者 : ジャニス・P. ニムラ
出版 : 原書房
価格 : 2,700円 (税込み)

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