ヘンテコ怪獣、行け!!世界中 園児に手作り紙芝居梅澤忠実

園児に紙芝居を読み聞かせる筆者
園児に紙芝居を読み聞かせる筆者

悪口を言う人間に腹を立て暴れる大きなお餅の「モッチラス」、薬品をかけられて怪獣になった便器の人形「トイレザンス」。そして、彼らを束ねるリーダーのゴッドマン――。私が園長を務める幼稚園では「ヘンテコ怪獣」と名付けたキャラクターが平和の大切さを伝える紙芝居を、月に数回、上演している。

「これからヘンテコ読むよ。みんな集まれ!」。声を掛けて回ると、多いときは100人余りの園児が歓声をあげながら講堂に集まる。「はるか宇宙のかなた……」。紙芝居を読み始めると、身を乗り出し目をまんまるにして聞いてくれる。

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2年で300キャラ

私は大学卒業後、自営業の傍ら、両親が横浜市で経営する二ツ橋あいりん幼稚園のスタッフとして働いていた。ある日、紙を手にしたいたずら娘3人組に「何か絵を描いて」とせがまれた。イモムシを擬人化して描くと「おもしろい」と大いに受けた。それを見た園児が次から次へとやってきて新しい絵を描けと迫った。

期待に応えようと夢中になった。身近なものと怪獣のイメージを組み合わせてはどうかと考え、食べ物や文房具、乗り物などからひねり出した。キャラクターの数は1年で200、2年で300を超えた。

怪獣たちに命を吹き込んだのも園児の一声だった。送迎バスを運転していたとき、後方席から「ヘンテコ怪獣が登場するお話を聞きたい」という声が飛んできた。思いつくまま語ったところ、また大いに受けた。

こうなると園児の要求はとどまるところを知らない。今度はヘンテコ怪獣が活躍する絵本を読みたいと詰め寄ってきた。絵本は大変だが「紙芝居なら」と安請け合いしてすぐに後悔した。運動一筋で、物語を作った経験など一度もなかった。

でも、約束は絶対に守らなければこけんにかかわる。キャラクターとにらめっこしつつ必死で物語を考えた。画用紙に鉛筆で下書きし、2人の先生に手伝ってもらいながら色鉛筆で塗った。

2カ月かけて完成させた第1作は「ゴッドマンが来た」。すべての神々が集うゴッドランドで、何でもできてしまうゴッドマンは妬まれたあげく地球に追放されてしまう。無人島に降り立ったゴッドマンは、自分のように仲間外れにされた怪獣を集め「ヘンテコランド」を作ろうとする話だ。

反響は上々で、勢いにのって次々と描いた。これまで作った紙芝居は23巻に。最初はただ、いろいろなキャラクターを登場させる展開だったが、20巻に近づいたころから何を伝えたいのか、テーマを掘り下げるようになった。園長になった2002年ごろのことだ。

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環境と平和をテーマに

世の中を見回すと環境汚染は深刻さを増すばかり。貧富の差ははびこり、戦争やテロの脅威も叫ばれていた。「環境を大切にする」「平和に仲良くする」。この2つをヘンテコ怪獣たちに訴えてもらおうと決めた。

物質的な豊かさを過度に求めたり、エゴに固執したりする現代の負の象徴として「サタンエンペラー」を登場させた。サタンエンペラーは、かつてゴッドマンによって封印された恨みを晴らすべく、手下たちを従えて仕返しをしようとする。この先ヘンテコ怪獣と戦いを繰り広げる予定だ。

現在、113人いる園児のうち、1割以上の15人に自閉症や精神発達遅滞などの障害がある。5歳の孫もその一人だが、ヘンテコ紙芝居を聞かせると他の園児と同じように「次はどうなるの?」と目を輝かせて聞く。

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中身はピカピカ最高さ

障害は個性なのだと、孫を見るとつくづく思う。ヘンテコ怪獣の「ヘンテコ」も、言い換えれば個性のこと。人とは違うその人間だけの個性を尊重し認め合う。ヘンテコ怪獣がそんな価値観を育んでくれればと願う。

♪ヘンテコテコテコヘンテコテコ 見た目はヘンテコだけれども 中身はピカピカ最高さ!

毎日の朝礼で、私が作詞したヘンテコ怪獣のテーマソング「僕らヘンテコ!」を流す。園児は小さな体をめいっぱい動かし楽しそうに歌い踊る。

昨年2月には、NPO法人「ヘンテコ怪獣企画室」を設立した。絵の描ける人やパソコン操作のうまい人を募って、キャラクターをコミックやアニメにする計画で、今夏にも開設するホームページで発信する。

将来はヘンテコ怪獣が子供をもてなすテーマパーク「ヘンテコランド」を作るのが夢だ。自然あふれるレジャーランドで「僕らヘンテコ!」を世界中の子供と歌って踊りたい。

(うめざわ・ただみ=幼稚園園長)

[日本経済新聞朝刊2016年5月5日付]

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