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人とAI 共生する社会描く漫画 共感できる未来の日常

2016/4/27 日本経済新聞 夕刊

山田胡瓜「AIの遺電子」第1巻(秋田書店)の表紙

 人工知能(AI)が囲碁のトップ棋士を破り、小説を書き、車を運転する時代。人とAIが共生する社会はもはやSFではない。そんな来るべき日常を描いた新作漫画が相次いでいる。

 「人工知能を治療する近未来版ブラック・ジャック」。今月出た「AI(アイ)の遺電子」(秋田書店)の単行本1巻は帯でそううたう。2015年11月から「週刊少年チャンピオン」で連載中。人と同じ外見や感情を持つヒューマノイドが人口の1割を占める近未来を舞台に据えた。

■現代と地続き

 主人公は人間の医師、須堂。ヒューマノイドの看護師リサと病んだAIの体や心を診断し治していく。ヒューマノイド差別主義者に妻を殺された記憶にさいなまれる富豪、親に虐待され対人恐怖に陥った子供――。人さながらに悩み苦しむヒューマノイドの姿は、AIと人が親子や恋人、上司と部下といった関係を築くとどんな問題が起こりうるかを想起させる。

 「宇宙戦艦やロボットがバトルを繰り広げるSFは僕も好きだけれど、そういった大きな物語ではこぼれ落ちてしまう日常の機微を描きたかった」。著者の山田胡瓜(きゅうり)はそう明かす。ヒューマノイドの存在を除けば、技術も暮らしぶりも現在とほぼ同じ。「ネットやITとともに暮らす現代人が今と地続きだと感じ、共感できる未来を示したい」

 山田は元IT記者で、モバイルや拡張現実(AR)などの分野を取材してきた。「取材経験からいうと、実はAIの研究者も漫画に影響されている人が多い。『ドラえもん』を作りたいという若い研究者もいた。漫画には未来をたぐり寄せる力があって、思った以上に現実と近い世界にある」と訴える。

 女子高生と女子高生型ロボットの初恋。AIと同性愛を絡めた異色作が「となりのロボット」(秋田書店)だ。女性向け月刊誌「プリンセスGOLD」で連載、14年11月に単行本になった。数年後に東京五輪を控えた日本。ロボットのヒロ(正式名プラハ)と知り合った幼児のチカは16歳になり、ヒロと恋に落ちる。

■人間らしさ問う

 チカとの何気ない日常を通じて、愛情や思いやりといった「人間性」を学習するヒロ。チカも思いを遂げられない切なさを味わい、大人の女性に成長していく。互いの心理描写を通して、AIは人と通じ合えるか、人間らしさとは何かといった古典的なテーマを現代の視点から問い直す。

 「スマホの秘書機能など言語を使ったAIとのコミュニケーションはもう実現されている。AIは既に身近な技術、日常生活と近いところにある」と著者の西UKO(ゆうこ)は指摘する。

 かつての名作もAIのリアリティーを取り入れる。14年12月から「月刊ヒーローズ」で連載中の「アトム ザ・ビギニング」(小学館クリエイティブ)は手塚治虫「鉄腕アトム」の前日譚(たん)を描く。大学院生の天馬博士とお茶の水博士が登場。アトムのプロトタイプ「A106」が少年漫画王道のロボットバトルを繰り広げるが、AIに芽生える自我が主題の一つになっている。

 機械と人間の共生は昔からSF漫画の主題になった。機械との反目、戦いや共闘など、手塚や藤子不二雄らが度々取り上げてきた。同志社大の竹内オサム教授(漫画史)は「機械が人を支配するディストピアとしての未来が描かれる作品も多かった。ロボットと人の差異を通して、人間とは何かを深く考えさせる」と言う。

 ロボットが初登場したのはチェコの作家カレル・チャペックが1920年に書いた戯曲「R.U.R.」。ロシア革命後の階級闘争、社会主義の拡大という世相を反映し、労働者の仕事を奪う安価な労働力、脅威として描かれた。その描写は後の小説や漫画に影響を与え、ロボット脅威論がしばしば登場する。

 AIは社会を変えつつあるが、未来像は見えにくい。山田は「産業革命の機械破壊運動のような摩擦や問題も起こるだろうが、その先に新しい働き方や価値観が生まれるはず。漫画が未来の可能性やAIとの向き合い方を考えるきっかけになれば」と話す。

(大阪・文化担当 多田明)

[日本経済新聞夕刊2016年4月26日付]

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