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訪日客の「夜遊び消費」狙え 勝負は8時から午前3時 ライブやショーが盛況、20年に4000億円市場との見方も

2017/9/25付 日本経済新聞 朝刊・夕刊

アミューズの体験型ショー「WA!」は夜8時からでも楽しめる(東京都品川区)

 ミュージカルに、音楽ライブやダンス。欧米では大人が深夜まで楽しめるクラブ文化が根付いている。世界でナイトタイムエコノミーと呼ばれる「夜遊び経済」を盛り上げようという機運が、日本でも高まってきた。訪日外国人客の「夜、遊べる場所が少ない」との声をきっかけに、年間4000億円ともいわれる夜遊び市場が日本にも誕生するかもしれない。

公演開始は夕食後の午後8時

 「異文化の融合が面白かった」。9月上旬、東京を初めて訪れたスイス出身のバーナード・リクターさん(44)は興奮冷めやらぬ様子で話す。

 観賞したのは東京・品川のホテルで催された「WA!」。アルゼンチンのパフォーマンス集団「フエルサブルータ」が太鼓などの日本文化を組み入れ、音楽や光、映像、踊りを融合させた70分間のショーだ。チケットは1人7600円から。

 しかけたのはサザンオールスターズなどが所属する音楽事務所アミューズ。「日本には外国人向けのエンターテインメントがない」との問題意識があり、構想を練り始めた。夕食後から終電までを意識し、最も遅い公演開始時間を午後8時とした。アミューズ総合研究所の辰巳清主席研究員は「観光、宿泊、エンタメを一緒に楽しむモデルケースにしたい」と話す。

 JTBも9月中旬から品川のホテルで和太鼓のショー「万華響」を始めた。訪日外国人客を意識し、夜の公演の開始は午後8時半。「再来年に常設のショーをめざす」(JTBコミュニケーションデザインの大塚雅樹常務)。松竹も夜遅くから公演する案を温める。

■風営法改正で大手企業も参入しやすく

 訪日客は日中は観光に忙しいが夕食後は時間を持て余している。めぼしい夜遊び拠点は海外でも頻繁に紹介される新宿の「ロボットレストラン」と原宿の「カワイイ モンスターカフェ」くらい。空白地帯に大手企業が触手をのばし始めた。

 主な対象は午後8時から午前2~3時。今はこの時間は飲食やクラブ、カラオケなどが主体だが訪日客の消費は少ない。遊べる場を増やして経済を活性化させる狙いだ。

 市場規模は不明だが、A・T・カーニー日本法人の梅沢高明会長は「訪日客が夜に1万円多く使えば2020年に4千億円を見込める」と語る。

 夜遊び経済に詳しい斎藤貴弘弁護士は「風営法改正で、一定のルールのもとにダンス営業などが朝まで認められるようになり、大手資本が参入しやすくなった」という。自民党は4月にナイトタイムエコノミー議連が発足。事務局長の秋元司国土交通副大臣は「日本の夜はハコ不足といわれたが、これからは健全な市場を作れる」とみる。

 政府は17年中に夜遊び経済の底上げに向けた検討会を設け、交通インフラや立地・残業規制などの問題の解消を急ぐ。若年層の安全の確保・保護への配慮も課題だ。

■米欧が先行、地下鉄は24時間運転

 すでにある劇場などの施設を夜間も稼働させ、有効活用して経済を活性化させる。規制の緩和などで融通し、大きな新規投資をせずに新市場を起こせるとあって夜遊び経済に注目する動きは世界的なものになっている。

 手本の一つは米ニューヨークのブロードウェーだ。夜11時ごろまでミュージカルを開く。広く観光客にも足を運んでもらえるように治安を良くし、地下鉄も24時間運行している。ブロードウェーの経済効果は年間1兆円超との試算がある。

 英国も昨年、週末に地下鉄の24時間運行を始めた。10年かけて今より1割ほど多い4兆円市場に育てる計画だ。ベルリンとアムステルダムもクラブ文化が盛り上がる。

 文化庁によると、文化芸術資源を使って稼ぎ出す経済を文化国内総生産(GDP)とよぶ。日本の場合、2011年度は全体の1.2%の5兆円だった。将来はこれをフランスやカナダ並みの3%(18兆円)に引き上げたいとしている。自然や食、歴史に続く第4の柱として夜遊びへの期待は高まる。

(馬場燃)

◇  ◇  ◇

■日本人自身も夜の魅力を再発見

 コンサート終了後、カップルで夕食を楽しもうにも飲み屋しか開いていない。出張先や温泉町で夕飯後、街に出ても気軽に楽しめる場所に乏しい。そんな不満を感じた人は多いだろう。健全な夜遊びの場は、日本ではほぼ未開拓の市場だ。

 総務省の調査結果を木曽崇・国際カジノ研究所所長が分析したところ、2006年からの5年間で「平日、起きている人」が増えたのは23時45分から朝7時まで。それ以外は減った。私たちの生活は24時間型に変わりつつあるのに夜の消費が未発達なのは「お天道様とともに起き、寝る」という農耕民族としての信仰があると木曽氏はみる(「『夜遊び』の経済学」光文社新書、2017年)。

 「よそもの」である外国人が増える効用のひとつは、日本人自身が見過ごしてきた魅力を発見したり、埋もれがちなものを形にするきっかけになったりする点だ。忍者、古民家、生活雑貨などインバウンドブームで改めて脚光を浴びたものは多い。

 14年前に公開されたソフィア・コッポラ監督の映画「ロスト・イン・トランスレーション」は、夜の東京の街に溶け込めず所在なげな米国人旅行者の姿を描いた。彼らの時間と消費力を取り込まない手はない。日本の夜も、外国人観光客の増加を機に大きく変わるかもしれない。

(編集委員 石鍋仁美)

[日本経済新聞朝刊2017年9月25日付、夕刊10月5日付を再構成]

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