2014/10/22

おでかけナビ

出てきた「さんま馴れ鮓」は確かに身が薄い。そのせいなのか、思ったほどにおいはきつくない。粘度の高いコメとの相性は悪くなく、ほどよい酸味にもいやな風味はない。こちらは一味トウガラシを振ったしょうゆが合う。「そのまま食べられるが、しょうゆを付けるとまろやかになるし、ピリッとした一味がアクセントになる」と松原さん。「消化がよく、胃に優しい。ビタミンは豊富だし、調味料ではない自然の酸味が魅力」と語る。

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新宮では脂の落ちたサンマが使われる。手前左は30年物。ほとんど原形をとどめていない

珍味中の珍味もいただいた。「本馴れ鮓」は30年物だ。サンマもコメもまったく原形をとどめておらず、とろとろのヨーグルト状。「これはすしか?」というのが第一印象。顔を背けてしまうような強烈な臭みがありそうだが、さほどにおいはしない。かすかな酸味は感じられても思いの外クセがない。日本酒やワインを片手にチビチビやる人が多いそうで、「なれずしに乗せて食べても合う」。

もともと秋祭りや年末年始といった人が集まるハレの日の食べ物だったなれずし。「今ごろの季節は自前のおけを持ち出してきておばあちゃんがなれずしを仕込み、近所や親戚に振る舞うのが日常だった」と岩崎さん。しかしそんな郷土の味も、50代以下の若い世代には受けが悪いという。

脂の落ちたサンマがなれずしには適しているという(新宮市の東宝茶屋)

「酢飯を使って、数時間で食べる早ずしと間違っている人も多い。家に持ち帰ってから『腐っているじゃないか』と苦情の電話が来ることも年に4、5回ある。お宅にうかがって説明してきたこともありました」。昔ながらの味を守ってきたものとしては笑うに笑えないエピソードだ。

それでも1日20~30本は売れるというから、人気は根強い。弥助寿司でも、気温が高くて品質管理の難しい7~8月はなれずしを作らず、9月に再開したばかり。これからの季節がシーズンなのだ。より本格派の頭付きのなれずしは正月に向けた予約限定商品。大みそかには今でも20本以上売れるという。においはきついが、食わず嫌いはもったいない。和歌山に来たら一度はお試しあれ。

<マメ知識>使う魚、地域ごとに特色
 和歌山は「すし」の宝庫だ。北部の紀の川沿いでは川魚のじゃこ(雑魚のこと)を使ったジャコずしがあるし、渋柿の葉でくるんだ柿の葉ずしは橋本市など伊都地方で有名。使われる魚もいろいろで、有田市では漁獲高日本一を誇るタチウオ、南部の古座川町ではアユも使われる。
 新宮駅前の「徐福寿司」はくせのないさんま姿ずしがメーン。10日から1カ月ほど塩漬けしたサンマを、ユズ酢などに漬けて塩抜きしてくさみをとる。場所柄、駅弁代わりに車内に持ち込む客も多い。

(和歌山支局長 土田昌隆)

[日本経済新聞夕刊2014年10月21日付]

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