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紀州なれずし たまらない香り 珍味30年物 もはや液状

2014/10/22 日本経済新聞 夕刊

すしといえば、頭に浮かぶのは江戸前の握り。海に面し、長い海岸線を持つ和歌山県でも、新鮮な魚介類は県外にもアピールできる人気の県産品だ。しかし紀州を代表する郷土料理となると、なれずしをおいてほかにない。使われるネタも地域によってさまざま。今に残る紀州のすし文化をのぞいてみた。

あせの葉で包み、おけに並べて10日ほど発酵させる(和歌山市内の弥助寿司)

なれずしとは酢を使わず発酵によって酸味、風味を出すすしのこと。和歌山市内で「紀州名物なれずし」を看板に掲げる「弥助寿司」の4代目店主、岩崎守さん(70)に作り方を聞いた。

具となるサバは1カ月以上塩漬けにする。「ここをしっかりしておかないと、後で発酵させているうちにいたんでしまう」。さらにこれを一昼夜塩抜きしてから、酢飯でなく塩めしの上に乗せる。あせ(だんちく)の葉で包んだら、隙間なく木おけに敷き詰めて上から重しを乗せ、1週間から10日ほどつけ込んで自然発酵させる。

◇            ◇

あせの葉ごと包丁を入れて皿の上へ。昔は頭からしっぽまで1匹丸ごとを使ったというが、最近は半身で提供される。「熟すし」「くさりずし」ともいわれるだけあって、独特の香りはけっこうきつい。それをカバーするのが脇に添えられる新ショウガ。甘酢に漬けたガリではなく、生のままの薄切りだ。すしと一緒に口に入れると、ショウガの辛みがくせのあるなれずしをぐっと食べやすくする。

弥助寿司をはじめ紀北地方のなれずしはマサバでつくる。近海でよくとれるからだが、ところ変われば品変わる。県最南端の串本町を越えた熊野地方ではもっぱらサンマが使われる。

三重県境の新宮市。「紀州名産 本なれ鮓(ずし)本舗」を掲げる「東宝茶屋」の松原郁生さん(61)は「北海道や三陸沖では脂がのっているサンマも、海流に乗って和歌山近辺にまで下ってきたころには脂が抜けてしまう。それがなれずしにはちょうどいいあんばいになる」と説明する。「ここら辺では刺し身ではまず食べない。焼いても堅くてうまくないんです」

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