ブラックウォーター ジェレミー・スケイヒル著米民間軍事会社の内情を暴露

2014/10/20付

民間軍事会社という存在は日本でも知られるようになったが、その実態は霧に包まれている。本書は、イラク戦争後のアメリカ占領統治の過程で注目されるようになった民間軍事会社の内情を批判的視点から暴露した書物である。原著は2008年、オバマが選出されることになった大統領選の年に刊行されて複数の賞を受賞し、オバマの当選を後押しする効果ももったものと思われる。

(益岡賢・塩山花子訳、作品社・3400円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 民間軍事会社がアメリカに多数設立されたのは、冷戦の終結による軍縮で、軍が縮小され、予算も削減されたことがきっかけだった。ブラックウォーターもその一つである。ただ、同社が特殊だったのは、後に同社社長となるエリック・プリンスが海軍特殊部隊(シールズ)出身の元軍人であるだけでなく、ミシガンで成功した実業家の父から巨額の遺産と保守的な政治信条を受け継いだことである。彼が潤沢な資金を提供してシールズに民間訓練施設を提供するところから出発したブラックウォーター社は、ブッシュ(息子)政権がイラクの復興に送り込んだブレマーを警護する契約を得たころから活動を広げた。同社の名前が広く知られるようになったのは、反米闘争の強かったファルージャで04年に4人の社員が殺害された事件からであった。

 本書は、小さな組織で軍事的効率の極大化を図る「軍事的変容」政策を推進すると共に、宗教的保守主義色の強かったブッシュ政権下でブラックウォーター社が繁栄していく過程を克明に描いている。しかし07年、バグダッドのニスール広場で多数のイラク人を殺害する発砲事件を起こしたことで一転、同社はイラクから追放され、米議会で追及を受ける。訳者の解説では、その後プリンスは退任したが、会社は社名を変えて存続しているという。

 訳文はこなれており、うるさいほどの原注も省略されていないのは良心的だろう。ただ、このタイミングでの邦訳刊行はいささか皮肉な気がする。一旦はテロとの戦いの終結を宣言したはずのオバマ大統領は、再び中東に軍事介入している。近年、原著者は、無人機を使った軍事作戦を扱い、オバマ政権が前政権と変わらないことを批判した『アメリカの卑劣な戦争』を刊行し、プリンスも回顧録を出版した。ブラックウォーター社の物語は過去の記録にとどまらず、アメリカが世界的役割を放棄しない限り、これからも続くであろう民間軍事会社の活動を予感させるものである。

(京都大学教授 中西 寛)

[日本経済新聞朝刊2014年10月19日付]

ブラックウォーター――世界最強の傭兵企業

著者:ジェレミー・スケイヒル
出版:作品社
価格:3,672円(税込み)