秋の夜長 星空をもっと知りたい
神話の世界に思いはせ
眼下には都心のきらめく夜景。360度の眺望。見上げれば夜空が広がる。六本木ヒルズ(東京都港区)52階の大展望台のさらに上、屋上「スカイデッキ」だ。
毎月第4金曜日(10月は毎週金曜日)に開催する「六本木天文クラブ 星空観察会」。天体望遠鏡ものぞけ、専門家が初歩的な質問にも親切に答える。
「来たのは初めて。きれいですね」という東京都台東区の菊池由香里さん(37)と足立区の中村早苗さん(38)は、会社の同僚。仕事帰りに訪れた。「参加者の約半分は偶然来られた方。女性が約7割。気軽に来て都心の夜景と夜空を楽しんでほしい」と広報の洞田貫晋一朗さんは言う。
中秋の名月、皆既月食と、秋の夜空で印象的だった月。星はどうか。「秋の星空は地味。でも、夏から冬へと移りゆくさまを感じられる」と国立天文台(東京都三鷹市)の広報普及員、石川直美さんは言う。冬と違い、野外でも長時間過ごしやすい利点もある。
秋の夜空で、まず見つけたいのは「秋の四辺形」。10月の中旬、東京の夜8時ごろなら、始めに夏の大三角をさがす。明るい1等星だ。「目慣らしとともに、三角形のスケールの大きさを実感して。図で見る印象よりはるかに大きい」(石川さん)
次に、南の空の高いところから少し東寄りに目を移し、少しゆがんだ四辺形をさがす。2等星、3等星なので、夏の大三角より暗い。秋の四辺形から秋の星座たちが見つかり、夜空に古代エチオピア王家の神話絵巻が繰り広げられる。
秋の四辺形は、ペガスス座の一部で、天馬ペガサスの胴体に当たる。右下の星から、馬の頭が逆さに出る(イラスト参照)。右上の星からは前脚2本。ペガスス座は天馬の前半身だ。
次に四角形の左上の星は、「馬のおへそ」であり、アンドロメダ姫の頭に当たる。ここから、少しカーブを描いて2等星をたどる部分がアンドロメダ座だ。
その先に勇者ペルセウス。北寄りにはWの形のカシオペア座。アンドロメダ姫の母、王妃カシオペアだ。さらに北には王のケフェウス。アンドロメダ姫を襲ったお化けくじらが東の空の低い位置にいる。「神話にまつわる星座が集まっているのは秋ならでは。神話を調べてみるのもいい。天文への興味が次へ広がる」(石川さん)。このほか10月以降、さまざまな天体ショーが肉眼でも観察できる。
楽しみ方は星の数ほど
東京・表参道の路地を入った一角に銀色のキャンピングカー。「宇宙かふぇ」(東京都渋谷区)だ。星のカフェラテアートなどのメニューを始め、天文関連の本も置き、自由に読める。
東京都世田谷区の河村玲子さん(43)がネットで見つけ、江戸川区の川崎果奈さん(30)と訪れた。「かわいい!」。店内の一角に並ぶ天体をモチーフにしたアクセサリーや雑貨にも興味津々だ。「アクセサリーがきっかけで話がはずむことも」と宇宙かふぇの田口千恵さん。月1回、夜には天体望遠鏡を外に出す。「街中でも夜空は楽しめる。星が多すぎない分、主な星が見つけやすい」と言う。
月刊誌『天文ガイド』(誠文堂新光社)の片岡克規編集長は「2012年の金環日食から、星や宇宙現象を素直に楽しいと思う空気が広がったようだ」という。
昨年、女性をターゲットにムック本『星空さんぽ』を発行、今秋で3号目だ。編集部員の黒田麻紀さんは、「プラスαの知識を身につけたい、自分で挑戦して体験したいという女性が増えたのでは」と推測する。
「海外旅行先で星を見るのもいい。人それぞれの楽しみ方を」と片岡さん、黒田さん。間口は広い。
(ライター 小長井 絵里)
[日経プラスワン2014年10月11日付]
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