四人組がいた。 高村薫著怒れる庶民が繰り出すホラ話

2014/9/16

道が行き止まりになる山里の村が、市町村合併で市に組み込まれた。そんな村の旧バス道沿いの集会所で、一日中茶飲み話に耽(ふけ)っている四人の老人たちがいる。元村長と元助役、郵便局長とキクエ小母(おば)さん。珍しく外から訪れてくる者がいると、たちまち四人の毒気に中(あ)てられ搦(から)めとられることになる。思いつきの荒唐無稽なホラ話に、腹黒い企(たくら)みと皮肉いっぱいの混ぜ返し。話を合わせてどんどん膨らませるチームワークは、一心同体ともいえるほどだ。

(文芸春秋・1500円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 高村薫の新作と聞けばミステリーを期待する人も多かろうが、本書は社会派作家の中でも飛び切り硬派で反骨的な視線を持つ作者ならではの、一種の創作落語のようなおもむきがある。

 都会人はよく、自然あふれる純朴な田舎などと勝手なイメージを抱くが、とんでもない。意地悪、我儘(わがまま)、強欲のうえに子供嫌いとくる。いわゆる「良い人」ではないが、断じて悪人でもない。悪人は、むしろ金儲(もう)けに利用しようと田舎へやって来る、権力者や都会かぶれの人間たちの方で、四人の仕打ちはそういう連中相手の化かし合いであり、小気味よい抵抗なのである。

 十二の話が収められているが、読み進むほどにホラの度合いがエスカレートしていく。嘘から出た実(まこと)というか、シュールなファンタジー、ブラックなお伽噺(とぎばなし)へ化けていくのだ。タヌキが人に化けるのは序の口で、月夜の山中であらゆる生き物が青白く光り出す。村の畑のキャベツたちが大行進をする。ダチョウが走り回る。ついにはツキノワグマ、シカ、イノシシ、キツネら獣たちが禅の修行をしたり、村に押し付けられた保育児童の子守りを手伝ったり、山の生き物全部を巻きこんで結託していくのである。

 なかでも傑作なのは、老人たちの東京見学に合わせて、四十八匹の子ダヌキで結成されたTNB48なるアイドル・グループを引き連れて、東京お台場で公演するくだりである。ステージのフィナーレには、入れ歯と骨を鳴らす「ザ・ジジババーズ」が加わり、クマにシカにダチョウまでが踊り狂い、吠(ほ)え、啼(な)くのである。

 留(とど)まるところを知らないこのエネルギッシュな空想に、半ば呆(あき)れながら笑いながら接するうちに、ふと背筋の寒さを覚える。著者は混迷し歪(ゆが)んでいくばかりの現代社会への怒りと絶望の反転として、この底なしのブラック・ユーモアに興じていることが伝わってくるからである。四人組とは、政治からコケにされ続けている辺境の怒れる庶民たちなのだ。

(文芸評論家 清水 良典)

[日本経済新聞朝刊2014年9月14日付]

四人組がいた。

著者:高村 薫
出版:文藝春秋
価格:1,620円(税込み)

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