水の声を聞く
宗教への諷刺と希望
1980年代に登場し、「闇のカーニバル」(82年)、「ロビンソンの庭」(87年)でその才能に注目をあびながらも、大手の商業映画を撮ることなく、独立独歩、困難な道を歩いてきた異才、山本政志監督の新作。
新宿のコリアン・タウンの一隅で「真教 神の水」なる新宗教が、信者をあつめていた。教祖のミンジョン(玄里(ヒョンリ))は、少女のような清純な美貌。民俗衣裳(いしょう)を着けて、入信する者の悩み苦しみを聞き、水槽にたたえられた澄んだ水に、おうかがいを立てる。そして、ご託宣を、韓国語でのべる。
ミンジョンの祖母は、韓国・済州島の巫女(みこ)だった。その才能が自分にもつたわっているのか、自信はないが、彼女の気もちとは別に元広告代理業者の男(村上淳)が運営を仕切り、教団は、韓国の巫女風のパフォーマンスを儀式にとりいれてネットに流すなどのマーケティング戦略で、どんどん大きくなっていく。
インチキ教団の内幕、やくざに追われてころがりこむミンジョンの日本人の父(鎌滝秋浩)がひきおこす波紋などが、人間観察の喜劇として展開する。本当の信仰でなくてもいい、何かすがるもの(組織でも人間関係でも)が必要な人々。
本当の信仰って、でも、何だろう。悩んだミンジョンは、教団をはなれる。埼玉の山中で、亡き母や祖母を知る在日の巫女に、いろいろと教わり、自分のやりたいことが見えてくる。
だが、それは教団組織のめざす方向とは乖離(かいり)していた。ミンジョンがみずから企画した、山中の儀式で、破局が一気に押しよせる。
現代の断面をのぞく鋭い諷刺(ふうし)喜劇でありながら、ミンジョンの見出した清廉な祈りの境地に希望を託しもする。宗教に対するこの両義的な態度が味わい深い。
なお、同じ映画館で9月3日から、山本作品の回顧特集もおこなわれる。2時間9分。
★★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2014年8月29日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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