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小田和正 衰え知らぬ美声、心に響く

2014/7/31 日本経済新聞 夕刊

9月で67歳になるというのに、なんと美しい声だろう。しかも、この年齢にして地声でこんなに高い音域が出せるとは。みずみずしく艶のある声が余韻と余情を与え、歌詞の一語一語が胸に染み込んでくる。その魔法は3時間近くに及んだステージの終幕まで失われることはなかった。

長い花道を歩きながら歌う小田和正=写真 菊地 英二

発表したばかりの3年ぶりのオリジナルアルバム「小田日和」はヒットチャート上位に食い込んでいる。この日も「そんなことより 幸せになろう」「やさしい風が吹いたら」など、新作からの曲を次々と披露していった。

ベテランのコンサートの観客といえば、新曲はおとなしく聴き、昔の曲になると大喜びという例が多い。新旧の曲の落差を考えれば、正直な反応だろう。しかし、この日は違った。かつての大ヒット曲が始まっても、客席の温度はさして変わらない。それほど新作の出来がいいのだ。60代も半ばを過ぎて、なお創作面でも現役バリバリというのは、実に画期的といえる。その充実ぶりがステージに華やかな輝きをもたらしていた。

小田作品の特徴は、歌い回しの個性とメロディーが一体化している点にあるように思える。あの歌い方が生み出した旋律、旋律そのものが小田和正の声で歌っている。そんな印象の曲が多い。そこに独自の美学のフィルターを通過できた言葉だけを乗せていく。風変わりな曲はほとんどなく、どれも正調小田和正節で、その純度は極めて高い。

それをマンネリと感じさせないのが、衰えを知らぬ声の力だろう。66歳の心に吹く風が肉声へと変換され、客席の一人ひとりの心の鐘を鳴らす。心技体がそろわなければ、これほどの境地には到達できまい。13日、東京体育館。

(編集委員 吉田俊宏)

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