銀行は裸の王様である A・アドマティ、M・ヘルビッヒ著金融危機の原因と解決法 平易に

2014/7/14

リーマン・ショックやユーロ危機など、金融危機がグローバル経済に与える影響が深刻化するなか、銀行への規制に関する議論が国際的に活発となっている。ただ、その多くは専門的な知識を前提とし、難解なものも少なくない。本書の大きな特徴は、金融経済学のフロンティアで活躍する2人の研究者が、金融危機の根本的な原因とその解決方法を、専門的・技術的な議論をあえて避け、分かりやすく解説したところにある。

(土方奈美訳、東洋経済新報社・4000円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 著者たちによれば、金融システムが脆弱な最大の原因は、資産に比して自己資本が不十分な銀行が「他人のカネで博打(ばくち)を打つ」構造にある。その構造は、リーマン・ショックから5年以上が経ってもほとんど変わっていない。金融システムを健全なものにし、危機の再来を未然に防ぐためには、銀行の自己資本を例外なく大幅に増強し、この構造を早急に変える必要がある。本書で展開される主張や提言は、きわめて明快である。

 これまでにも、銀行の自己資本比率を高めるため、さまざまな規制が各国の規制当局によって課されてきた。国際決済銀行(BIS)による「バーゼル合意」がその代表的なものである。本書は、これらの規制には欠陥が多く、従来の政策的な取り組みは金融システムの健全性を維持する上で全く不十分と断ずる。現在進行中のバーゼル3の改革でさえ、実現への移行期間が長すぎ、内容自体にも問題が残されていると指摘する。

 銀行に対する自己資本規制を強化した場合、銀行による「貸し渋り」が起こり、持続的な経済成長が阻害されるのではないかという懸念もある。しかし、本書は、その可能性を一刀両断のもとに否定し、銀行の自己資本比率を引き上げても、社会的なコストは高まらないと主張する。むしろ、自己資本比率の低い脆弱な銀行を生きながらえさせる「先送り」こそが、非効率の源泉となり、結果的に経済活動を低迷させることを、日本の経験にも言及しながら論ずる。

 本書の議論では、内容をできるだけ平易かつ明快にするためか、不完全な論理展開や論理の飛躍が散見される。それを補完するため、巻末にまとめられた注は、約150ページにも及ぶ。このため、内容の細かい点まで理解しようとすると、やや読みにくい面はある。ただ、記述は一貫性を持ち、その内容は一般読者でも十分に理解可能なものばかりである。われわれが、今後の金融システムのあるべき姿を考える絶好の材料を提供してくれることは間違いない。

(東京大学教授 福田 慎一)

[日本経済新聞朝刊2014年7月13日付]

銀行は裸の王様である

著者:アナト アドマティ, マルティン ヘルビッヒ
出版:東洋経済新報社
価格:4,320円(税込み)