ヴァロットン展時代の裏面照らす異端者

2014/7/4

スイス生まれの画家、フェリックス・ヴァロットン(1865~1925年)。16歳の時、印象派が席巻するパリに出て絵を学び、ゴーギャンに心酔する若者が結成した「ナビ派」の一員になった。ところが絵画の革新を担った仲間の画家たちに比べると、作品も人柄もどこか不可解で、謎に包まれている感がある。

東京・丸の内の三菱一号館美術館で9月23日まで開催中の「ヴァロットン 冷たい炎の画家」は、そのミステリアスな雰囲気に浸れる充実した内容。昨年パリで幕をあけた同名展をもとにした日本初の回顧展だ。

結婚直後に描かれた「夕食、ランプの光」は、家族の食卓を縁取る深い陰影に目を奪われる。

着飾った新妻も連れ子の少女も無表情。左の青年は物憂げに視線を泳がせている。父親の経済的な破綻で苦労を重ねたヴァロットンは、パリの大画商の娘である妻との暮らしに葛藤もあったろう。後ろ姿のシルエットは画家本人の疎外感の表れとも読める。

節制、禁欲といったプロテスタントの道徳観で育てられ、女性に対して複雑な思いも抱いたようだ。その絵は結婚後、さらに特異さを増す。

劇場内のボックス席で声をひそめる男女。「貞節なシュザンヌ」は好色な2人の長老が水浴中の人妻を陥れる旧約聖書の物語を下敷きにしたが、男女の関係性は逆転してはいまいか。誘い誘われているのはどちらなのか、さまざまな想像を誘う。

第1次大戦の戦場やパリの風俗をアイロニカルに表現した木版も見どころ。時代の裏面を照らした「異端者」の冷めた目がさえている。

(編集委員 窪田直子)

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