増える生活困窮家庭、子どもの貧困 見過ごすと?

投資通じ「負の連鎖」断つ

さらに調べると、インターネット上で受けられる無料塾も増えていることが分かった。NPO法人manaveeでは全国の大学生などのボランティア講師が、無料で中高生向けに受験対策の講義映像を配信している。代表の手嶋毅志さん(19)は「地方には適当な塾がなかったり料金が高くて行けなかったりします。地域間格差、経済格差を解消したいという思いで講師になる人が多いです」と話す。

章司は背景を探ろうと、みずほ情報総研を訪ねた。主席研究員の藤森克彦さん(48)は、貧困層が増えていることを示す「相対的貧困率」のグラフを出し、「企業が男性の正社員を終身雇用し、家族を扶養する従来のあり方が崩れています」と解説した。子どもの貧困率上昇の理由は「母子家庭が増えていることが一因です。シングルマザーの8割は働いていますが、非正規労働が中心で家計が苦しいのです」と藤森さん。

「無料の学習会や塾が増えれば格差を解消できるのでは」。章司が事務所に戻って報告すると、所長は「そもそも学校の勉強では不十分なことが問題だろう」。改めてOECD調査を見ると、日本の政府支出に占める教育支出は32カ国中31位だった。

「でも、子どものいない人には関係ない話にも思えるなあ」。章司がつぶやくと、「生まれた地域や家庭環境にかかわらず、能力を生かし経済的自立ができる人を育てることは国づくりの根幹ですよ」と声がした。振り向くと、NPO法人、Teach For Japanの代表理事、松田悠介さん(30)だった。

同団体は米国で始まった取り組みの日本版で、トップ大学の卒業生や企業で活躍した人材を、課題の多い地域の学校に教員として送り込む。「教育段階のつまずきをなくし、単価が安い海外の労働力やロボットに代替されない人材を育てることは日本にとって必要です」と松田さん。

国立社会保障・人口問題研究所の社会保障応用分析研究部長、阿部彩さんに聞くと「労働力人口が減る中で、貧困に陥って能力を発揮できない子どもが多ければ国の財政にもマイナスです」。

18歳の若者に職業訓練を受けさせるなど500万円ほど投資をしても、正社員として就労できた場合、定年まで働けば5千万円程度(非正規では2500万円前後)の税・社会保険料が社会に還元される。一方、放置して生活保護に陥った場合、約5千万円の費用がかかる。職業訓練による就労が成功するとは限らないものの、費用対効果は1億円近いともいえる。

海外では貧困の増加は治安の悪化や犯罪の増加につながるとして、社会的コストの試算に入れることもあるという。「米国の州別データでは貧困層が増加すると経済成長が鈍化するという結果も出ています」と阿部さん。

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