歌舞伎座6月公演菊五郎の実盛にコク

今月の歌舞伎座は菊五郎、吉右衛門、幸四郎とそろい、仁左衛門が8カ月ぶりに復帰という豪華版だ。菊五郎の「実盛物語」が心機充実、えも言われぬコクがあってすてきな出来だ。心理や写実よりも型をきっかりと爽やかに演じることから立ち上がるロマンにこの作品のユニークな魅力がある。斎藤実盛という花も実もある心優しいダンディーな武人の姿が躍動すれば成功。菊五郎はまず間然するところがない。左団次の瀬尾が老巧、菊之助の小万、梅枝の葵御前は最適役。家橘と右之助の老夫婦、橘太郎の仁惣太も好演。

「名月八幡祭」は縮屋新助で知られる黙阿弥の作を池田大伍が書き換えた近代歌舞伎。吉右衛門は大詰めの狂気の場面の迫真の演技もだが、女の気まぐれに翻弄される「美代吉の家」の場が、芝雀の美代吉の好演と相まって芝居の彫りの深さに堪能させられる。見慣れた作でありながら、新たな面白さを再発見する。歌六の魚惣がいかにも江戸の男。歌女之丞、京蔵ら脇も腕達者がそろう。

幸四郎は「大石最後の一日」がいい。長編「元禄忠臣蔵」の最終幕だが、幸四郎の大石はこの幕にまで至る統率者としての人間像をおのずと浮かび上がらせる。錦之助の十郎左衛門、孝太郎のおみのも適任だが、弥十郎の堀内伝右衛門がいかにもその人らしい気骨を見せる。幸四郎のもう一役「素襖落(すおうおとし)」はやや分別が勝つ。

肩のけがで休演していた仁左衛門が復帰。孫の千之助と水入らずで短編舞踊「お祭り」で、まずは足慣らし。健在ぶりを披露した。めでたい。

松緑が長男・左近の襲名と初舞台を祝う「蘭平物狂」。松緑の蘭平は気のいい色奴というより、暗い情念を秘めたかに見えるのがユニーク。時蔵の阿国と菊之助の山三の「歌舞伎草紙」は美しい口絵のよう。25日まで。

(演劇評論家 上村 以和於)