ローマ歌劇場「ナブッコ」随所に熱いほとばしり

終身名誉指揮者のリッカルド・ムーティと来日したローマ歌劇場の公演から、初日(20日)の歌劇「ナブッコ」を、東京文化会館でみた。

旧約聖書の世界を視覚化した=写真 堀田 力丸

作曲者ヴェルディ28歳の出世作で、血気と荒々しい力に満ちている。ムーティは若いときから得意としてきた。

ムーティは前日の記者会見で、母国の歌劇場をとりまく現状の厳しさへの強い危機感を明らかにしながらも、「イタリアからオペラが消えることはない。日本人にとって富士山がそうであるように」と、力をこめて語った。

人為の芸術と自然物では事情が異なるのではないかという疑問は、この男においては意味をなさない。人為のものだからこそ、意志と努力で道は開けると信じているのだ。

ローマ歌劇場は、ミラノ・スカラ座ほど高水準のアンサンブルをもつわけではない。この日も特に第1幕で合奏に硬さと乱れが散見されたが、ムーティの強い思いがこの作品の、祖国を失ったユダヤ人の嘆きと渇望に重なり、次第に細部に血が通い、随所に熱いほとばしりを聴かせた。

独唱陣も指揮者の巧みな統率のもと、激しさの一方にベルカント時代の名残を残す軽妙さが入りまじる複雑なスタイルを滑らかに、伸びやかに歌った。とりわけ、堂々たる威厳で舞台を圧したザッカーリア役のドミトリー・ベロセルスキー、後半の挫折と改心を豊かに表現したナブッコ役のルカ・サルシ、強靱(きょうじん)な硬質の響きで激情を示したアビガイッレ役のタチアナ・セルジャンが印象に残った。

ジャン=ポール・スカルピッタの演出も簡素ながら、陰影豊かに旧約聖書の世界を視覚化して、効果的だった。

(音楽評論家 山崎 浩太郎)

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