世田谷パブリックシアター「ビッグ・フェラー」正義の戦争? 衝撃力は十分

真に恐ろしい悪魔的行いは正義を掲げる闘いが反転したとき姿を現す。その恐怖に意外な角度から迫る英国の問題作。題材の北アイルランド紛争をつまびらかに知る日本人は少ない。演出の森新太郎や役者の苦闘やいかに。易々とは運ばない舞台、けれども衝撃力がある。

ニューヨークの薄汚いアパートに警官、消防士、逃亡者がつどって始終酒を飲み、下ネタ満載の会話を延々続ける。なんと、これが英国人と闘う北アイルランド独立闘争の支部。題名を愛称とするリーダーは富裕な成功者で、正義の戦争を疑わない。

言葉の細部までおろそかにしない森演出はスラングと格闘し、彼らをごく普通の「アメリカ人」として浮き彫りにする。奇矯なナマリを用いる成河が移民の心情を刻々と演じ、抜群の面白さだ。過激化する闘争を妨害する密告者は誰か。本国の活動家を演じる小林勝也がこわい。粗野な田舎者が、そのままの息で殺し屋に変じるのだ。

人間を緻密(ちみつ)に描くだけではすくいきれない作意がある。アイルランド系が力をもつアメリカ社会が正義の独立闘争を支え、アラブの国と武器のつながりができる。あれは別物とイスラム原理主義をののしるセリフの皮肉。爆音の響く中、消防士が向かう先は。

劇の大きなうねりをとらえるには、展開の足どりが重い。同時代史を見すえるブラックな論理には緩急のキレ味を。題名役に奮戦する内野聖陽が熱演たくましいが、冷え切った絶望ももっと。浦井健治に進境。ほかに明星真由美、黒田大輔、町田マリー。

9.11の米同時テロの裏面を感じさせる作。リチャード・ビーン作、小田島恒志訳。約3時間。6月8日まで、東京・世田谷パブリックシアター。6月12~15日、西宮・兵庫県立芸術文化センター、6月21、22日、りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館。6月28、29日、穂の国とよはし芸術劇場PLAT。7月5日、大津・滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール。

(編集委員 内田洋一)