暑さや運動などで皮膚や体内の温度が上がると、脳の視床下部にある体温調節中枢という部分から指令が出て、皮膚の表面にある「エクリン汗腺」に伝わる。すると細胞内の塩分と水分が汗腺の中に移動する。これが汗のもとだ。
成分は血液と似ており、体に必要な塩分を多く含んでいる。健康な汗腺は大切な塩分を再吸収し、体内に戻す機能を持つ。その結果、体から出る汗の成分は99%が水で、サラサラとしており臭いの原因にもなりにくい。
ところが冷房が効いた環境で暮らしていると、「汗腺の機能が衰え、塩分を再吸収しにくくなる」と大阪国際大学の井上芳光教授は話す。濃い塩分を含むベトベトした「悪い汗」が出やすくなってしまう。塩分が失われると体力が落ち、夏バテしやすくなる。汗をかく量も減るため、体温調節が困難になってめまいや吐き気、意識障害などを招く熱中症にもかかりやすくなる。
こうならないためには、衰えた汗腺の機能を回復させることが大切。どんな方法が有効なのか。井上教授は「運動などで汗をかく機会を増やせば、汗腺の機能がよみがえる」と訴える。塩分が少ない「よい汗」をかけるようになるという。
でも、つらい運動はしたくないという人が大半だろう。神戸大学の近藤徳彦教授は「体力に問題がない人の場合、ジョギングなど少し息が切れるくらいの運動をするとよい」と話す。汗腺を鍛えるには十分に汗をかく必要があり、ウオーキングより負荷が高いジョギングが向いている。
走り出してから数分後には汗をかき始める。「速歩き程度の遅めのスピードでも十分に効果がある。10分以上続けてしっかり汗をかいてほしい」(近藤教授)。三日坊主にならないように、ジョギングやそれと同等の運動を数週間、毎日続けるのがよいという。
膝が悪くジョギングが難しい人は自転車に乗っても汗腺を鍛えられる。ただ「風を受けて体が冷え、汗をかきにくくなる」(近藤教授)ため、汗が出るまで長めに乗るのがコツだ。水泳も体が冷えて汗をかきにくい。しかし、全く運動しないよりはるかによい。効果を補うため、ジョギングより長い時間続けるよう心がけよう。自分が好きな運動を選べば継続しやすい。