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地人会新社「休暇」 死を前に揺らぐ心、繊細に

2014/5/28 日本経済新聞 夕刊

 人は不可避な死を予告された時、どのようにふるまうのか。一様の答はなく正答もない。英国の劇作家ジョン・ハリソンの戯曲「休暇」の主人公ローズは、人生に、自分の弱さにどれだけ真摯に向き合っていけるか、という回答を出したように見える。日本初演で、栗山民也が演出した。

 登場人物3人の濃密なセリフ劇。妻をがんで亡くした劇作家の経験に基づき書いている。ローズ(保坂知寿)は乳がんで片方の胸を十数年前に切除。再発の不安を抱え、夫アーサー(永島敏行)の愛情を支えに明るく生きてきた。しかし、再発。ローズは緩和ケアセンターのカウンセラーが持つヨークシャーの別荘に行き、残された時間をどう使うか一人になって考えようとする。そこで、ガスオーブンの修理に来たラルフ(加藤虎ノ介)と次第に親密になる。

 ローズは自分の正直な気持ちをテープレコーダーに吹き込むのが日課。毎年6月夫婦で1カ月過ごした仏プロヴァンスの別荘でのことが何度も回想される。母親の死、子供を作らなかったこと、好きだった絵をやめてしまったこと、など後悔の念が浮かぶ。

 ローズの心理状態がそのまま芝居となっているような展開で、不安や希望、後悔、千々に揺れ動くローズの心を保坂が繊細に表現している。妻を優しくいたわるが、その外面的な優しさが妻の重荷になるような夫役を永島が好演。修理工だが意外と知的で、自然に生きる大事さを教えるラルフの加藤は個性的だ。

 詩がいくつか引用される。人生に対して詩の持つ英知が戯曲では重要な意味を持っており、もう少し詩情を大切に湧き立たせたい。翻訳は水谷八也。6月1日まで、赤坂RED/THEATER。

(文化部 河野孝)

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