いつもの街に新たな発見 建築散歩の楽しみ方
建築家の視点でより深く理解
4月中旬、社会人向けの講座を開く美術アカデミー&スクール(東京都千代田区)が主催する「建築家とまわる建築散歩」。この日、集まったのは男女14人。講師で建築家の岡村裕次さんと垣内崇佳さんの話を聞きながら、写真を撮ったり、うなずいたり。
「能楽堂の屋根は(神社に多い)檜皮(ひわだ)ぶきに見えますが、アルミの角パイプがすのこ状に並んでいます。新しい素材で古い伝統を表現しています」などと説明。参加した20代の女性は「普段から、写真を撮って調べたりして、建物を見るのが好き」。別の女性も「なぜその形や素材なのか、意味が分かると面白い」と話す。
JR千駄ケ谷駅を起点に、国立能楽堂や聖徳記念絵画館を回った後、建築家の隈研吾さんが設計した青山の寺院、梅窓院とパイナップルケーキ店のサニーヒルズまで約3時間。岡村さんらはデザインの注目点ばかりでなく、どう周辺環境に配慮して設計されているかなど、建築家の視点で解説する。「街並みは建築の集合体。街に興味を持ってほしい」と話す。
この日は明治神宮外苑が含まれるコース。神宮外苑は明治天皇の遺徳をしのんで、寄付などで建設された庭園やスポーツ・文化施設から成る。東京都は2020年開催の東京五輪のメーンスタジアムになる国立競技場を核とした周辺地域を再開発する計画だ。
1964年の東京五輪の競技会場だった東京体育館(東京都渋谷区)は、90年に全面改築されて現在の姿に。「メーン施設の大体育館は円形で全体的に掘り下げられていますよね。街中なので建物の圧迫感がないようにと槙文彦さんは設計されたそうです」
次は神宮外苑に移動。5月末に営業終了する国立競技場を見渡し、「先ほどの槙さんは新国立競技場の規模縮小を要望しています」と説明。調布市から参加した女性(45)は「建物それぞれも面白いが、今回は明治から大正、昭和、平成と変わりゆく歴史の中に自分がいることを実感し、今後この地域がどう変わるのか、興味が湧いた」と話す。
下調べで楽しさ倍増
「まちを歩く―建築めぐりを楽しむ(東京&近郊編)」の監修者、政策研究大学院大学客員教授の三井康壽さんは、フランスではエッフェル塔の建設時に景観を壊すなど批判もあったとし、「日本でも建築に対し、一般の人がいい建物、いい街を作ろうと意見を出すことが大事」と話す。
どんな建築を見るかは、好みもあるだろう。戦争や災害を耐えて残った歴史ある建物のほか、国内外の著名建築家が手掛ける建築も数多い。
行きたい街で決めるほか、建築家で決めるのも一案。例えば、建築界のノーベル賞と呼ばれるプリツカー賞を受賞した日本人は丹下健三さん、槙文彦さん、安藤忠雄さん、妹島和世さん、西沢立衛さん、伊東豊雄さん、坂(ばん)茂さん。「あの建築も!」と新たな発見があるかもしれない。
内部も見たい場合には、営業時間なども調べておく。個人邸やオフィスビルなど、私有の土地、建物の場合は迷惑をかけないようにマナーを守りたい。
下調べをすれば楽しさが倍増する。情報を得るときは、地域の観光情報のほか、ガイド本などが有効だ。TOTO出版の建築MAPシリーズは、東京や京都のほか、九州・沖縄がある。また、11年リリースのスマートフォン向けアプリの「東京建築ナビ」は東京の有名建築を紹介しており、最新の情報も順次更新する予定という。
他に、建築家の有志などが建築物を紹介するインターネットの情報サイトを運営していることもある。身近な地域の理解を深めるきっかけになる。
(畑中麻里)
[日経プラスワン2014年5月17日付]
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