そばは緑 釧路の常識老舗 のれん分け太っ腹

「釧路っ子にとって、そばと言えば『緑』が定番」と言ってもよいくらい、北海道釧路市のそば店で出される麺の色は緑が主流だ。子供のころから、家族や友人とお出かけで食べるそばの麺は、見た目さわやかなつやつやした若草色。のどごしの良いすっきりした食感とあいまって、釧路の多くの人は「そばは緑」とすり込まれている。

釧路市のあるそば店を紹介するグルメサイトに投稿があった。「緑じゃないそばを求めてこちらを訪問。こちらには緑のそばはありません(釧路限定の基準ですが…)」。緑以外のそばを出す店が釧路では少ないことを示すエピソードだ。

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釧路のそばはなぜ緑なのか?それを探るには北海道で最も古いそば店の一つ、東家(あずまや、釧路市)の歴史をひもとかなければならない。

釧路市民に緑のそばを定着させた竹老園東家総本店

市の中心部から車で約10分。春採湖の西のほとりに東家グループの中心的存在である竹老園東家総本店がある。1954年(昭和29年)、昭和天皇・皇后両陛下が北海道巡幸で釧路を訪れた際、夕食に東家のそばを食べ、昭和天皇がお代わりを希望されたことでも知られる老舗の有名店だ。

現在の4代目主人、伊藤正司氏(87)は語る。「自分がもの心ついた時、そばはすでに緑だった」。大正末期に生まれた4代目の子供のころというと、昭和初期には東家のそばはすでに緑だったことになる。

東家の歴史は、初代の伊藤文平が福井から北海道の小樽に渡った1874年(明治7年)にさかのぼる。屋台引きを手始めにそば作りを始め、その後店を構えた函館で大火に見舞われ、明治42年、好景気にわいていた釧路に移った。当時、中心部にあった本店は文平の息子で2代目の竹次郎が仕切っていた。「先々代の竹次郎のころに東家のそばの原型ができていたのでは」。正司氏の次男で厨房を切り盛りする一人、伊藤真司氏(52)は語る。

竹次郎のころにできたそばの独特の色と食感。真司氏は「根底には江戸のそばへのあこがれがあったのではないか」とみる。緑の色については「推測の域を出ないが、東京のやぶそばの薄緑を見て何らかの影響を受けたのかもしれない」(真司氏)。しかし、そばの実の中層部分までひいた二番粉を使うやぶの場合、ゆであげるとややくすんだ緑色になり、東家の鮮やかな緑とは趣が異なる。