在宅医療、存亡の危機? 報酬下げで減る訪問医師老人ホーム膨らむ不安

4月に行われた在宅医療に対する診療報酬の大幅引き下げを受け、老人ホームなど高齢者向け施設に医師を派遣している医療機関の間で「割に合わない」と診療体制を見直す動きが出始めた。今夏以降にこうした流れが本格化する可能性もあり、施設関係者からは「在宅医療がなりたたなくなる」との不安の声が漏れる。

「医療機関との関係の薄い施設に医師が来なくなるかもしれない」。神奈川や静岡県の介護付き有料老人ホームなど16施設を運営する愛誠会(東京・千代田)の岡村幸彦社長はこう話す。

■「患者1日1人に」

医療サービスに対する診療報酬は2年に1度改定される。今年4月の改定では、老人ホームやグループホームなど高齢者向け施設に訪問診療を行った際の報酬が引き下げられた。1人の患者に対し月最大5万円程度あった医師の技術料が、同じ日に同一施設の複数の患者を診察すると4分の1に減った。

医師側からすれば「割に合わない」となる。実際、愛誠会にも「診察する患者は1日1人、一施設1カ月あたり計20人までにしたい」との申し出が医師からあったという。

在宅医療の診療報酬は2012年に増額された。一度に多くの患者を診察できることから、施設への訪問診療に対する注目度が高まった。

「昔は往診医を頼む際に菓子折りを持ってお願いしていたのが、医師側から営業に来るほどになったのに……」と岡村社長。「厚生労働省ははしごを外すのが早すぎたのではないか」。二転三転する国の方針に不信感を隠さない。

施設側の負担も増している。医師の訪問時は施設職員が患者の状況を説明するなどの対応が必要だが、その手間も増えた。

首都圏で10カ所の介護付き有料老人ホームを経営するアズパートナーズ(東京・千代田)シニア事業部の浅見泰之マネージャーは「これまでは特定の日に対応すればよかったが、1日1人に限定され職員は毎日拘束されるため業務が回らなくなっている」とこぼす。

「かかりつけの医師が来なくなった。面倒を見てくれないだろうか」。千葉県松戸市で「いらはら診療所」を経営する苛原実院長のもとに4月上旬、老人ホームの経営者から訪問診療を打診する電話がかかってきた。採算が合わなくなった医師が訪問診療をやめたという。「手いっぱいで断らざるを得なかった」。苛原院長は苦渋の表情を浮かべる。

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