ホリプロ「わたしを離さないで」ファンタジーあふれる青春物語

英国在住の日系作家、カズオ・イシグロの小説「わたしを離さないで」を蜷川幸雄が演出した。映画でも有名になったが、舞台版は日本に翻案し、若手劇作家の倉持裕が脚本を書いた。寄宿舎で寝食を共にする男女たちの青春ストーリーのおもむきで、蜷川演出は視覚的なファンタジーを加味した舞台にしている。

寄宿学校へールシャムは潮風が感じられる場所に立つ。活動的なリーダー格の鈴(木村文乃)、大人びた感じの八尋(多部未華子)、クラスで浮いた存在のもとむ(三浦涼介)。外界と遮断された世界で育ち、仲間意識の一方、気持ちをコントロールできず感情を爆発させることもある毎日だ。厳しい主任保護官の冬子先生(銀粉蝶)、理解のある晴海先生(山本道子)らが生徒の指導にあたっている。

臓器移植の目的でクローン人間を集め厳しく育てているというのが基本にある。ただ脚本はそれをあまり表面化させないため、最初の方は、いじめ、恋愛などの話が展開する学園ものとなっている。記憶の残像というのか心象風景的な場面が続くのも、クローンの議論に表される生命の尊厳の問題に対し踏みこみ方が不十分だからだろうか。

臓器移植が崇高な使命だと教えられても、運命を変えられない限り自由はない。ある意味で自己犠牲を強制された彼らは、この現代に「強制されたような生」を送る若者に似ている。だが、臓器移植の犠牲になり短命であっても、その間に生きたことがかけがえなく、いとおしいものであったならば、その生に一抹の救いがある。多部、木村、三浦らははつらつと真剣に青春の嵐をさまよう。まぶしいまでの若手のふんばりが作品に血を通わせている。15日まで、彩の国さいたま芸術劇場。

(文化部 河野孝)

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