マルコス・ヴァーリ&ステイシー・ケント繊細な表現、響き合う才能

意外な出会いというべきか、アントニオ・カルロス・ジョビンと並ぶ才能といわれるマルコス・ヴァーリと現代最高のジャズ・シンガーの一人、ステイシー・ケントのステージが日本で実現した。ジャズとブラジル音楽の出会いはボサノバに象徴され、ケントもデビュー当時からボサノバを取り上げ、ヴァーリの名を広めた「サマー・サンバ」も当然歌っていた。

ヴァーリ(左端)とケント(右端)=写真 市川 幸雄

しかし、この二人が、2011年のあるステージで共演して以来、これまでとは違うレベルのジャズとブラジル音楽との出会いが実現された。翌年彼らはブラジルでツアーを行い、その記録が昨年ヴァーリの活動50周年記念として発売され大ヒットした。

このステージはその再現で、バックも最高の実力者ばかりで、その音楽的な質の高さは、ヴァーリの才能にそのままつながっている。ケントもその世界の最重要な存在となっている。曲は新旧のヴァーリの作品で、もちろん「サマー・サンバ」もあったが、それ以上にこの出会いの妙は「ドリフト・アウェイ」などのバラードにあったと思う。ケントの情感の襞(ひだ)を語るように、正確な音程で自由にメロディーを歌う世界は、ヴァーリの繊細な作品世界にいかにもぴったりで、新たな世界を獲得したと言っていい。

ボサノバは、確かに繊細な音楽だが、その時代の最後の才能のヴァーリは、そこにとどまらないたくさんの引き出しを開けた人だった。ただ根底にある上質な人間性のようなものは、変わるものではない。そこにケントという駒が見事にはまった。やはりこれは、出会うべくして出会った音楽の奇跡的な出来事と言うしかない。21日、ブルーノート東京。

(音楽評論家 青木 和富)