リー・リトナー&デイブ・グルーシン様々な音楽要素 組み込む

リー・リトナーとデイブ・グルーシンは、アントニオ・カルロス・ジョビンに捧(ささ)げたアルバムがあるが、今回のステージは、簡単にその再現というわけにはいかない。彼らだけではなく、さらに小野リサと、彼女の共演仲間のジョビンの孫のダニエルが参加し、むしろ、2チームのジョイントという印象だ。

グルーシン(左)とリトナー(C)Tadashi Yamashita

もっとも、こうした視線も、実はそれほど重要ではない。むしろ、このステージの土台にあるのは、1960年代のテレビ番組「アンディ・ウイリアムス・ショー」なのかもしれない。ボサノバ・ブームのこの時代、当然、カルロス・ジョビンもゲストで何度か登場していたが、実はこの番組の音楽監督をしていたのが、まだ20代のデイブ・グルーシンであった。

そうしてみると、やはり小野リサは、当時人気のアストラッド・ジルベルトのように見えるし、グルーシンが小さな子供の頃から知っていると紹介した孫のダニエルは、ジョビンの化身なのかもしれない。

終始にこやかに演奏したリトナー(C)Tadashi Yamashita

とはいえ、アントニオ・カルロス・ジョビンのボサノバの名曲で埋められたこのショーは、決して単なる回顧ではない。ベースのエイブ・ラボリエルのチョッパー奏法が炸裂(さくれつ)するファンク・テイストを代表に、ここにはボサノバ以後の様々な音楽要素が、自然に組み込まれており、すでに上質な現代の大人のポップ・ミュージックの世界を作り上げている。そして、小野リサが、何故国境を越えて世界に親しまれているのか、むろん、彼女の稀有(けう)な才能のなせる技だが、あらためてボサノバという音楽の不思議な優しさと普遍性を意識させられた世界でもあった。5日、オーチャードホール。

(音楽評論家 青木 和富)