観光列車なぜ増える? 大人も「モノより体験」

デフレ経済で物価も収入も下落し、自分に必要な物を厳選して消費にメリハリを付けるようになったことも背景だ。東京に帰った明日香を、三菱総合研究所の主席研究員、高橋寿夫さん(50)が出迎えた。「消費者3万人を対象にした調査では、お金持ちになって高級品を持ちたい人が減り、自分らしく気ままな生活をしたい人が増えています」

第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生さん(46)が通りかかった。「バブル期までの消費は米経済学者ヴェブレンが唱えた『顕示的消費』で高額な物を持つことに価値がありました。今は違います」。お金を出せば手に入る高級品より、時間と手間をかけて自分が探し求める価値を味わうことが消費の対象となるという。「いわば『時間多消費型』の消費です」

経済成長期は生産性重視で効率よく消費することが喜ばれ、時間は節約の対象だった。成熟期には、何かを経験して自分なりの価値を得る時間そのものが楽しみになった。

「ゆっくり過ごす時間を楽しむのが、今どきの最先端ってことですね」。事務所に戻って報告した明日香に、所長が一言。「調査報告書は効率よく、生産性重視で頼むよ」

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ネット交流で楽しみ共有

時間を楽しむ消費の広がりには、インターネットでの交流が普及したことが一役買っている。

財布などを製造販売するガッツ(大阪府茨木市)のブランド「クアトロガッツ」では、名刺入れほどの小型財布が人気。購入者が財布を持って旅行した写真をサイトで公開している。昨年、ものづくり技術を生かした製品として大阪府の「大阪製ブランド」に認証された。ネット店舗での購入者の1~2割は好みの色を組み合わせるカラーオーダーで注文、完成まで約2カ月待つ。

バッグなどを製造販売するヘルツ(東京・渋谷)は基本的に受注生産。納品まで1カ月以上かかるが、ここ2~3年で顧客がほぼ倍増し、店舗数を増やしている。SNSで購入者の声を募るほか、実際に使う場面や使い込んで色や風合いが変化した写真の投稿専用サイトを設けている。商品が届くまで待つ時間も、その後に使う時間も、楽しみの一つというわけだ。

茨城キリスト教大学経営学部の田口尚史准教授(47)は「企業側は、消費者が商品を使う段階にかかわろうとしている」という。あえて未完成な商品を提供し、消費者に使う時間を楽しんでもらう手法だ。さらに「消費者がネットで交流してアイドルの成長を見守るような、未完成なものが育つ時間を他人と共有する消費スタイルが広がっている」と話している。

(編集委員 大賀智子)

[日本経済新聞朝刊2014年4月22日付]

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