観光列車なぜ増える? 大人も「モノより体験」

モノより体験、消費シフト

中嶋さんは昨冬、3泊4日で乗車した。「車窓の風景や車内の美術工芸品を楽しみ、食事に舌鼓を打って、乗客や乗務員と会話する。非日常の物語のような体験だった」とうっとり。「乗る時間そのものにお金を払う価値がある。鉄道は、もともと効率的な大量輸送を目指し、移動時間の短縮を追求するもの。その常識を破るのが、観光列車です」と声を弾ませた。

そこへJR九州営業部担当部長の渡辺太志さん(53)が歩いてきた。「A列車やななつ星は、景勝地では時速30キロほどでゆっくり走る。観光列車で非日常の物語を味わってもらうには、特急でも遅く走るほうがいいのです」

「物語か」とつぶやく明日香のスマートフォンに、メールが届いた。JTB総合研究所主任研究員の早野陽子さん(48)からで、題名は「今どきの旅行は自分だけの物語づくり」。開封すると「何か体験したり地元の人とふれあったりする時間を楽しむ旅行が人気。消費全般にも通じる傾向です」と書かれていた。

明日香はメールをヒントに大阪を訪れた。3月に全面開業した日本一高いビル「あべのハルカス」(大阪市)に興味を持ったからだ。ホテルや美術館などが入り、高さは300メートル。歩き疲れて、中にある近鉄百貨店のソファで一休みしようとすると「どうぞくつろいでください」と、広報担当者が声を掛けてきた。

「買い物せず座っていてもいいのですか?」と驚くと、広報担当者は「以前は効率よく売り上げが増えるよう工夫しましたが、今は滞在時間を延ばすことを重視しています」と話した。市民団体の活動場所の『街ステーション』も8カ所設け「百貨店を様々な体験の場にしたい」という。

明日香の隣に、宝島社の男性向け商品情報誌「月刊モノマックス」編集長の柚木昌久さん(38)が腰を下ろした。「物そのものより、使って体験できることや過ごす時間が大切になっています」。すでに物をたくさん持っている消費者は、デザインや価格だけでは心を動かさないという。

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