田部京子「ピアノ音楽紀行~北欧」曲それぞれの魅力引き出す

2014/4/18

音楽レビュー

北欧の森は黙している。でも耳を澄ませば、それぞれの木々はささやき、個性が宿り、輝ける樹木となる。日本を代表する実力派ピアニスト、田部京子による「東京・春・音楽祭」の「ピアノ音楽紀行~北欧」。演目にはシベリウスやグリーグの小品が並ぶ。数分程度の目立たない曲の数々を慈しむように、田部は繊細な音を丹念に紡ぎ、1曲ごと異なる魅力を引き出した。

北欧の小品の数々に存在感を持たせた=写真 堀田 力丸

フィンランドのメリカントらの珍しい曲から始まった。いずれも旋律が分かりやすく、特にスウェーデンのペッテション=ベリエルの曲は日本の唱歌の雰囲気さえ漂う。ドイツ音楽と北欧の民謡調が融合した作風だが、親しみの中にも気品がある演奏だ。

続くシベリウスは8曲。「交響曲など大作に隠れがちですが、優れたピアノ曲が多い」と田部は言う。作品24の「ロマンス」は初期の交響曲を思わせる壮大な歌い方が印象的。翼を広げて飛び立つ鳥のような高揚感は、4分弱の小品であることを忘れさせる。

「樹木の組曲」の「樅(もみ)の木」では、細やかな分散和音から導かれる哀愁の旋律に力強さを加え、高貴さと威厳を表した。「花の組曲」は一転して愛らしくコミカルなほどの軽妙さ。「ロマンティックな情景」では、田部が最も得意とするシューベルトに通じる叙情の表現がさえわたった。

後半のグリーグは有名な「ペールギュント第1組曲」。速さを増していく難曲「山の魔王の宮殿にて」は、彼女の高度な技巧を再認識させる。最後の「抒情小曲集」での旋律の鳴らせ方は実に端正だ。これほど旋律をきれいに歌わせるピアニストは少ない。シューベルト弾きは北欧の深い森も確かに見据えている。6日、東京都美術館講堂。

(編集委員 池上輝彦)

注目記事