ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団「コンタクトホーフ」類例のない舞台芸術

1978年初演だが、時代を超越した作品である。タイトルは「男女の出会いの館」の意。ダンスホールのような古びた大広間。壁に沿った椅子に23人の男女がすわっている。男はスーツにネクタイ、女はドレスにハイヒール。20年代を想起させるノスタルジックな音楽が流れている。

ダンサーたちはさりげない日常動作を繰り返す(C)Arnold Groeschel

舞踊家で振付家のピナ・バウシュが確立したタンツテアター(ダンスシアター)という新しいジャンルは、演劇的舞踊でも、舞踊の入った演劇でもない。演劇でも舞踊でもない何かだ。それが何であるかを説明することは難しい。同様の試みをしたアーティストは多いが、成功したのはピナだけである。

ストーリーはない。舞台に登場する人物たちをダンサーと呼ぶのも憚(はばか)られる。というのも技巧的な「見せる」ダンスはいっさいない。彼らは、耳に触る、お尻を突き出す、歯を剥き出すといった、さりげない日常動作を繰り返すが、それらは日常の文脈から切り離されていて、いまどうして彼らがそれをやるのか、まったくわからない。あるいは彼らは一列になって舞台上をひたすら歩くが、何のために歩いているのか、私たちにはわからない。

彼らは、何かを演じているかと思うと、彼ら自身になって、個人的なことを観客に語ったりもする。

そうしたいっさいのことが私たちの心の深いところをいたく刺激するらしく、劇場を後にするとき、私たちは、他では味わえない独特の感動に包まれている。だがその感動がどこからくるのか、よくわからない。まったく類例のない舞台芸術だ。

ピナは2009年に急死した。月並みな言い方だが、その作品の中に今なお生きている。22日、彩の国さいたま芸術劇場。

(舞踊評論家 鈴木 晶)

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