私たちはどこから来て、どこへ行くのか 宮台真司著サブカルで解く「生活」の空洞化

2014/3/26

いま社会がおかしい。産業空洞化。デフレと格差。三万人の自殺者。動機不明の犯罪。ヘイトスピーチ。官僚支配と政治の無力。膨らむ国の借金。……そう感じるあなたは、本書を読みなさい。歯ごたえがあるがよく噛(か)めば、ああそうか、と腑(ふ)に落ちるはずだ。

(幻冬舎・1800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 著者・宮台氏はシステム論を武器に、理論家として現代社会と格闘し、サブカルチャーも継続して研究してきた。《宮台社会学35年分のエッセンス!!》(帯)が濃縮して盛り込まれている。

 著者は戦後を、〈秩序〉の時代/〈未来〉の時代/〈自己〉の時代、に大きく区分。その変遷を、郊外化やコンビニの普及、コミュニケーションの変容などを織りまぜ、詳細に記述していく。浮かび上がるのはポストモダンと呼ばれる時代の真実、すなわち《〈システム〉の全域化による、〈生活世界〉の空洞化》だ。〈システム〉には外がなく、全体を見渡す視点は存在しない。これは苦しい。

 70年代から時代と並走した著者の語るサブカルチャー論は、読み進むにつれヒリヒリした痛みの感覚を呼び覚ます。〈システム〉の枠組みで社会を考えることは、自己言及の渦のなかで自分の根拠をさぐり当てようとする、もがき苦しみにほかならない。宮台氏の用語は独特で難しいが、そんな現実を初めて切り出し、概念化し、命名しているのだからやむをえない。今回は巻末に、堀内進之介氏らによる150項目の註釈(ちゅうしゃく)がついていて、初心者にも親切だ。

 もうひとつ重要なのは、先進国に共通する〈システム〉の分析に加え、《特殊日本的問題》への処方箋も掲げている点だ。トクヴィルやパーソンズを参照すれば、日本の中間集団は欧米と違い〈システム〉にぶら下がっていて、〈生活世界〉を設計する発想に欠けるのは明らか。住民投票が民主主義再生の突破口ではないかとする。

 ガラパゴス島さながらに、独自のサブカルチャーを繁茂させた日本は、「クール」だと世界の注目を集めた。それを徹底して考察する宮台氏の仕事は疑いなく、世界第一級の業績である。一般読者も楽しめる本書を、手軽に手にできる幸運を感謝すべきだろう。

(社会学者 橋爪大三郎)

[日本経済新聞朝刊2014年3月23日付]

私たちはどこから来て、どこへ行くのか

著者:宮台 真司
出版:幻冬舎
価格:1,890円(税込み)

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