あなたを抱きしめる日まで
悲しみの中に漂うユーモア
親子の生き別れは、いかなる事情があるにせよ、それぞれの心に深い傷痕を残すにちがいない。本作は実話に基づき、50年前にカトリック修道院によって幼い息子と引き離された1人の老婦人の息子探しの旅を、悲しみの中にユーモアを漂わせて描いたイギリス映画である。
1952年のアイルランド。10代のフィロミナは未婚のまま妊娠してロスクレアの修道院に収容される。そこには同じ境遇の多くの少女がいて、出産の面倒を見てもらいながら働かされていた。フィロミナは男の子を出産するが、やがて子供は彼女から奪われ養子に出されてしまう。
それから50年後、娘のジェーンに心の秘密を打ち明ける老いたフィロミナ(ジュディ・デンチ)。母親の告白を聞いたジェーンは、政府の元広報担当でジャーナリストのマーティン(スティーヴ・クーガン)に頼み込んで母親に会ってもらう。最初は断ったマーティンだが、フィロミナの話に引き込まれていく。
ここからフィロミナとマーティンによる息子探しが始まる。アイルランドやアメリカへの2人の旅は、次第に息子の人物像を明らかにしていくが、いわば謎解きの行程として面白い。中でも事の発端となったカトリック修道院が婚外子を無理やり養子縁組をしていたことには驚かされる。
生き別れた息子を探す母親の物語は悲しいが、全篇(ぺん)に絶えずユーモアが漂っている。フィロミナはロマンス仕立ての大衆小説を愛好する庶民であり、マーティンはインテリでエリート。その2人の階級格差からくる齟齬(そご)が笑いを誘うことで物語の奥行きを膨らませて絶妙である。
監督は「クィーン」などで知られるスティーヴン・フリアーズ。演出も手堅いが、デンチとクーガンも好演。ラストで明かされる息子のその後は一興である。1時間38分。
★★★★
(映画評論家 村山 匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2014年3月14日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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