〈生きた化石〉生命40億年史 リチャード・フォーティ著「生き残り」を訪ねる旅から語る

2014/2/26

原題は「生き残りたち」。著者は、絶滅した三葉虫を研究する古生物学者であり、主として化石から生命史を語ってきた。ところが本書では、厳しい環境下生き続けた仲間に歴史を語らせようと、「生き残り」を現地に訪ねるという新しい方法を打ち出した。魅力的な切り口である。

(矢野真千子訳、筑摩書房・2100円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 まず、北米東海岸にいる三葉虫の仲間の現生種とされるカブトガニは、1億5千万年前(ジュラ紀)の祖先種の化石と姿があまり変わっていない。そこで「生きた化石」と呼びたくなるが、著者はそれを好まない。カブトガニは長い間、数多くの環境変化に適応し変化したからこそ現存しているのであり、この変化を知ることが重要だからである。ニュージーランドのカギムシは、エディアカラ紀へとつながるのだがそこで線がとだえる。この時の生物は何一つ生き残らなかったという不思議な時代なのである。

 ここで生命の始まりに戻り、オーストラリア西海岸にシアノバクテリアの集合体ストロマトライトを訪ねる。光合成によって生物独自の系が生まれた生命史の一大転換点を示す。次いで藻類、生き残りの代表は「海苔(のり)」だ。もう一つの古顔である古細菌は、イエローストーンの熱水泉に好熱、好酸など極限を好む仲間がいる。

 ここまでは単細胞。次は多細胞生物で、「ホネのない」世界の「生き残り」の栄誉を与えられたのは中国のシャミセンガイだ。多細胞の始まりを示すカイメン、クラゲ、サンゴなどの進化速度が決して遅くないこともわかる。以後、上陸して「大地を緑に」の植物、「ホネのあるやつ」脊椎動物、「保温性をもつ」哺乳類とどの仲間でもしぶとい「生き残り」が紹介される。こうして、生き残りのDNAに刻まれた歴史と化石のデータとを合わせた豊かな40億年史が描き出される。著者と共に旅をする楽しさと生命史を知る面白さとが重なるみごとな読み物である。

 ところで、著者ほどの行動力がなくても生き残りは身近にいる。しかも最強と言ってもよい奴(やつ)、ゴキブリだ。本書を読んだ後では叩(たた)き潰しにくいかもしれない。

(JT生命誌研究館館長 中村桂子)

[日本経済新聞朝刊2014年2月23日付]

〈生きた化石〉生命40億年史 (筑摩選書)

著者:リチャード フォーティ
出版:筑摩書房
価格:2,205円(税込み)