国立劇場「染模様妹背門松」ほか声の色が織りなす音のドラマ

まるで協奏曲の即興、カデンツァのようだ。第2部「染模様妹背門松(そめもよういもせのかどまつ)」の咲大夫を聴いてそう思ったのはドンドン、トントンの擬音語がとてもユーモラスだから。うぢうぢ、どぎどぎ、まだまだ……。声色が織りなす音のドラマだ。

奥庭狐火の段の勘十郎

「新版歌祭文」と並ぶお染久松ものの代表作。油屋の娘と奉公人が道ならぬ恋の末に心中する18世紀の物語だ。横恋慕する善六は憎めない悪役(チャリ)。勘十郎の人形が愛敬をにじませ、咲大夫の声と響き合い、燕三の三味線も雄弁。大様の話で、咲甫大夫の声も生きた。前段のおかしさがきいて命を散らす未熟な若さが哀切の色を深める。

第3部の「本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)」で人形の面白さが満開。十種香の段は冒頭、八重垣姫が絵中の若者に恋心を寄せる。後ろ姿の着物の赤が揺れている。血の色のモーションは少女の恋の激しさをまざまざと感じさせる。つかうのは簑助。

奥庭狐火(きつねび)の段になると姫は意中の若武者勝頼を救うため、狐の霊力を宿して湖を渡る。白狐の獣ぶり、毛を振り回す姫の狂乱、狐と姫の舞踏。めくるめく展開が清治の三味線、勘十郎のつける振りによって躍動する。玉女の勝頼に威風、濡衣(ぬれぎぬ)に文雀。嶋大夫が長丁場を語り、呂勢大夫が劇構造を下支えする。

「御所桜堀川夜討」弁慶上使の段の1場面。

第3部には「御所桜堀川夜討(ごしょざくらほりかわようち)」弁慶上使の段も。眼目は不条理に直面する人間の悲嘆にある。英大夫の確かな描写、玉也の弁慶、和生のおわさで、男女のちぎりがもたらす皮肉な運命がみえる。象徴はやはり着物の赤だ。

第1部「近頃河原の達引(たてひき)」は堀川猿廻(まわ)しの段で、住大夫がわび住まいの空気を声の力で運んでくる。人間の寄る辺なさを深々と。24日まで、国立劇場小劇場。

(編集委員 内田洋一)