鉄童の旅 佐川光晴著幼い少年、一人で北へ南へ

2014/2/13付
(実業之日本社・1500円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

東京郊外を走る私鉄の駅の売店の前に、座り込んでいる小学生がいた。近寄ってみると、その男の子は電車のプラモデルの箱を手に取り、じっと見ている。小さな文字で箱に書かれている説明を一心に読んでいるのだ。その真剣さと集中度に圧倒される。

 本書を読みながら、その少年のことを思い出していた。鉄道に興味を持つ少年が全国にいて、みんながプラモデルを、そして実物の車両を、真剣に見ている光景が浮かんでくる。

 本書の主人公、鉄童と呼ばれる少年も、そういう全国にいる鉄道少年の一人である。変わっているのは、幼い彼が一人で鉄道の旅をしていることだ。室蘭本線で、東海道線で、相模線で。ではなぜ、幼い彼が一人で列車に乗っているのか。それは本書をお読みいただきたい。

 絶妙な構成こそが本書のキモだと思うので、それをここに書くことは控えたい。鮮やかな描写が印象深いこと、胸に残るシーンがあること、ここではそれだけにとどめたい。

 鉄道は人生だ。人生そのものだ。本書を読むとそのことを実感する。いい小説だ。忘れがたい小説だ。

★★★★

(文芸評論家 北上次郎)

[日本経済新聞夕刊2014年2月12日付]

★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった

鉄童の旅

著者:佐川 光晴
出版:実業之日本社
価格:1,575円(税込み)