日ロ現場史 本田良一著対立に翻弄された漁民の姿追う

2014/2/11付

「北海道新聞」は北方領土をめぐる戦後史と現状を284回、2年以上も連載した。日ロ交渉だけでなく、根室や近海の現場を追い続けた。連載は2013年度新聞協会賞を受賞した。その記事をまとめたのが本書にほかならない。

(北海道新聞社・2100円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 日ソ共同宣言が調印された1956年10月、歯舞群島の水晶島で漁民が銃撃死した。今日まで拿捕(だほ)は1340隻に上り、日ソ当局が根室の漁民を介して相手国の内情を聞き出そうとした。ソ連が主張する領海内では、レポ船と呼ばれる日本の漁船が情報や金品を運びながら操業を黙認された。それが禁じられると、特攻船と称される小型の高速密漁船が登場したものの、やがて撲滅させられた。

 ソ連の崩壊後、ロシアは警備艇を増強し、銃撃事件が多くなった。ロシア船がカニやウニを花咲港に運び、根室経済を潤すようになった。密漁船の主役はロシアとなり、日ロは摘発で協力を始めたが、日本漁船への銃撃事件は終わらなかった。

 貝殻(かいがら)島のコンブ漁では、安全に操業できる枠組みが作られた。大日本水産会会長の高碕(たかさき)達之助が河野一郎農相とともにモスクワで申し入れるなどした末に、民間協定が締結されたのである。ソ連が200カイリ漁業専管水域を設定すると、金沢幸雄・全国鮭鱒流網漁業組合連合会専務理事が新たに協定を交わした。その背景には田中角栄の政治力があったようである。拿捕や違反操業は続いたものの、安全操業協定も結ばれ、北方領土問題等解決促進特別措置法がコンブ漁の減少に歯止めをかけた。

 600ページを超える大著の後半は、北太平洋におけるサケ・マス漁船や北転船(北洋底引き網漁業に転換した漁船)の北洋漁業、占守島(しゅむしゅとう)攻防戦、抑留、強制退去、ソ連時代からの北方領土交渉、根室や元島民の思い、ロシア内部の動きなどを描いていく。その間にはヤルタ秘密協定、サンフランシスコ講和条約、北朝鮮旗漁船拿捕事件のように、第三国が絡むこともあった。

 日ロ対立や災害に翻弄され、ときに犠牲者を出しながら、懸命に活路を見出(みいだ)そうとする漁民の姿が印象的だ。日ロでのインタビューも豊富に活(い)かされている。

(中央大学教授 服部龍二)

[日本経済新聞朝刊2014年2月9日付]

日ロ現場史 北方領土―終わらない戦後

著者:本田 良一
出版:北海道新聞社
価格:2,205円(税込み)