アート&レビュー

舞台・演劇

「夕鶴」 時代こえた普遍性引き出す

2014/2/3 日本経済新聞 夕刊

木下順二作、團伊玖磨作曲のオペラ「夕鶴」は1952年の初演以来、国外も含めて800回を超す再演を重ねてきた。疑いなく、最も成功した「日本のオペラ」である。

つう役の佐藤しのぶ(右)と与ひょう役の倉石真=写真 堀田 力丸

今回は、ソプラノの佐藤しのぶが主役のつうを初めて歌うことに加え、豪華なスタッフが参加した、話題のプロダクション。東京文化会館の初日(18日)をみた。

市川右近の演出、千住博の美術による舞台は、きわめて抽象化されたもの。中央の円盤が回り舞台となって起伏をつくり、与ひょう(倉石真)の家や雪原を暗示する。

派手で大仰な歌舞伎風ではなく、むしろ能のように観客の想像力にゆだねて、ドラマがもつ普遍性、時代をこえた普遍性を引き出すことが狙いだ。その一方で、背景の空や景色はステージ全体に美しい色彩と光をもたらし、現代の息吹を感じさせる。

森英恵の衣裳(いしょう)も、運ず(原田圭)と惣ど(高橋啓三)、子供たち(杉並合唱団)に代表されるように、洋風のもの。つうも和服ではない。

佐藤のつうは、高音のヴィブラートが気にかかったが、現田茂夫指揮の東京フィルハーモニー《夕鶴》特別オーケストラの的確な演奏をバックに、人の欲と弱さが壊してしまう真心の、はかない美しさを印象づけた。同時に、旧来の「しのぶ女」にとどまらない、現代風の自己主張をまじえた役作りも、舞台の方向性と一致していた。

与ひょうの子供っぽい無邪気さを利用する人間の醜さを嫌悪しつつ、なお愛しぬくと覚悟するあたりの心理表現には、まだ彫琢(ちょうたく)の余地がある。これは公演を重ねれば改善されるだろう。また男声では、ヴェテランの高橋がさすがの存在感を発揮していた。

(音楽評論家 山崎 浩太郎)

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