国立競技場の100年 後藤健生著スポーツの近現代史たどる

2014/1/15

私がはじめて国立競技場で競技を観戦したのは、1986年のラグビー早慶戦のことだ。そのとき感じた開放性、神々しさは今も忘れられない。そして今年、現在の国立競技場はその歴史を閉じる。

(ミネルヴァ書房・2500円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 そんなタイミングで本書を読むと、神々しさの理由が実感できた。土地柄、明治神宮との縁が深く、それが凛(りん)とした空気を作り、加えてスポーツの祝祭性と都心の一等地にあることが、国立競技場のアイデンティティーを作ったのだ。

 この本は、日本を代表する競技場の歴史を振り返ることで、スポーツの近現代史をたどっていく。著者は冷静なサッカー批評で知られるが、その土台にあるのは歴史を掘り下げる情熱だ。

 スポーツと政治は別物という議論が戦わされることがあるが、この本では、スポーツと政治の結びつきが日本においては極めて強いことが示される。神宮外苑がスポーツコンプレックスとして生まれたのは1924年。当時から文部省と内務省の縄張り争いがあり、大学生と競技団体の対立があった。

 そして戦後、58年のアジア大会の開催に向けて、前身である明治神宮外苑競技場が取り壊され、国立競技場が建設されるのだが、57年1月に工事が始まり、翌年の3月に完成している。わずか1年強。政治主導でなければ、不可能だっただろう。

 実は、国立競技場の欠点に、バックスタンドの階段の高さが不揃(ぞろ)いなことがある。飲食物を手にした観客が転倒するのを何度も見たが、この突貫工事が原因だったのだな……と溜飲(りゅういん)を下げた。

 そして問題の新・国立競技場のデザインについても、海外を含めた豊富な取材経験からの見識が示される。著者は、8万人規模のスタジアムが有効活用されることは世界的に見ても少なく、五輪開催後の運用が鍵であり、「国民的財産」であると同時に「国民的負債」にもなり得ると指摘する。

 陸上とフットボール兼用か、フットボール専用の競技場として生まれ変わるのか――。新・国立競技場の是非を議論する前に、歴史的視野を体に染み込ませるに最適のテキストである。

(スポーツジャーナリスト 生島淳)

[日本経済新聞朝刊2014年1月12日付]

国立競技場の100年: 明治神宮外苑から見る日本の近代スポーツ

著者:後藤 健生
出版:ミネルヴァ書房
価格:2,625円(税込み)

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