五峰の鷹 安部龍太郎著戦国乱世を生きる若者の痛快さ

2014/1/14

昨年、戦国の絵師を主人公にした『等伯』で直木賞を受賞した安部龍太郎が、またもや戦国乱世を舞台に選んだ。本書は、家の再興を託された若者の波瀾(はらん)万丈の人生を綴(つづ)った、壮大な物語だ。

(小学館・1800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 石見銀山を支配する三島清左衛門の息子に生まれた清十郎は、9歳の頃に大きな悲劇に見舞われる。大名同士の権力争いに巻き込まれた三島家は城を強襲され、父と一族の多くが死亡。母親のお藤と金掘(かなほ)り免許状が奪われ、敵に立ち向かった彼は、顔面に傷を負った。それから7年。室町幕府の奉公衆の家で育ち、塚原卜伝に剣を習っていた清十郎に、7年前の敵が放った卍(まんじ)組という忍者集団が襲いかかる。これを退けた清十郎は、生き残った旧臣たちに導かれ、三島家再興に乗り出した。そのために頼ったのが、東シナ海の覇者である海商・王直であった。しかし王直は清十郎を見極めようと、鉄砲の売買を任せる。かくして清十郎は、王直の姪(めい)のお夏や、相棒となった五島三郎たちと共に、戦国の世に飛び込んでいく。

 タイトルになっている“五峰の鷹(たか)”とは、王直の絶対の信頼を得ている証しであり、最終的には主人公を指す。三島家再興のために王直に協力を求めた清十郎だが、彼の器の大きさは、それだけにとどまらない。日本初の本格的な鉄砲隊を組織すると、石見銀山を巡る複雑な状況の中で、縦横無尽の活躍をする。また、足利13代将軍の義藤(後の義輝)を始め、多くの歴史上の人物に、実力を認められる。周囲の人々を魅了せずにはいられない、清十郎の生き方が、痛快な読みどころになっているのだ。

 さらに、厳島合戦等の海戦の面白さや、石見銀山を通じて見えてくる、戦国の経済戦略も見逃せない。清十郎と2人の女性の恋愛模様、種子島の鉄砲伝来の裏事情や敵の意外な正体など、物語性も豊かだ。清十郎と塚原卜伝がタッグを組んだ、チャンバラ場面にも、ワクワクさせられた。このように本書は、実にさまざまな要素が盛り込まれている。それを見事に纏(まと)めた、野太い戦国ストーリーが、存分に楽しめるのである。

(文芸評論家 細谷正充)

[日本経済新聞朝刊2014年1月12日付]

五峰の鷹

著者:安部 龍太郎
出版:小学館
価格:1,890円(税込み)

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