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新橋演舞場「寿三升景清」 海老蔵の非凡な発想力

2014/1/20 日本経済新聞 夕刊

歌舞伎十八番は市川団十郎家の家の芸だが、実際に上演される演目はごく一部でしかない。海老蔵はその上演されざる十八番物の復活に意欲を燃やしてきたが、今回は「悪七兵衛(あくしちびょうえ)」と呼ばれた平家の勇将・景清(かげきよ)を主人公とする4演目を1作品の中に統合するという壮挙を実現した。題して「寿(ことほいで)三升景清」。

景清が夢に三国志の英雄・関羽となる「関羽」、屋島の合戦で錣(しころ)を引き合って相まみえた源氏の将・三保谷(みおのや)に挑む「鎌髭(かまひげ)」、捕らえられた六波羅の牢(ろう)を破る「景清」、恩讐(おんしゅう)を超え悟りに至る「解脱」の4編を、個々に復活を試みた先人たちの発想をはるかに超えて、景清の生涯を夢と見て一流れの作品とした発想は非凡というべきだろう。川崎哲男・松岡亮脚本、藤間勘十郎振付・演出という協力はあるにせよ、根源のアイデアは海老蔵にある。

あっぱれなのは復活に付きまとう考証という紙魚(しみ)臭さをみじんも感じさせず、花形役者・海老蔵の勤める正月興行の一枚看板の演目に仕立て上げたことだ。他の十八番物のヒーローたちの陽性に対して、頬に藍隈(くま)を入れる景清は陰の要素も兼ね備えるが、それが海老蔵自身のキャラクターにある陽の陰に潜むすごみに通じる。己の役者としての本質を知る海老蔵が、自ら演じる海老蔵論になっているところがユニークである。

「鎌髭」のくだりは既に自身の手で復活したものだが、三保谷に左団次を労してさすがに大舞台。「阿古屋」の趣向を取り込んだ「牢破り」は芝雀が阿古屋を勤め、右之助の花菱屋の女将が水際立った姿を見せるなど芸の上でも正月芝居の楽しさが最も横溢(おういつ)する。獅童が「暫(しばらく)」のなまず坊主をもじった猪熊入道とさばき役の畠山重忠で本領発揮。歌舞伎はこれで演目をひとつ増やした。26日まで。

(演劇評論家 上村 以和於)

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