基本はあくびの形 劇団四季に学ぶきれいな発声法
体全体使いおなかから
12月下旬の朝、四季劇場[秋](東京都港区)の楽屋に入ると、開演の2時間以上前から俳優の準備が始まっていた。この日の演目はミュージカル「マンマ・ミーア!」。リハーサル室に俳優約30人が集まり、バレエで汗を流した後、さらに30分、発声練習をする。
「劇団四季はセリフが明確なことで有名」と、演劇・ミュージカル評論家の萩尾瞳さんは話す。「大劇場の2階の端っこの席でも、しっかり歌詞を理解できる」
秘訣は独自の発声法にある。「呼吸法」「母音法」「フレージング法」の3つから成る。劇団創立60周年の今年、浅利慶太代表はこの四季メソッドを本にまとめた。浅利さんは「演劇を目指したことのない人でも、きれいな話し方ができる」と指摘する。
劇団の中心俳優、青山弥生さんが、具体的に教えてくれた。
まずは「呼吸法」。声は「喉でなく、おなかから出すのが基本」。両足を肩幅に開いてリラックスして立ち、ヘソの2~3センチ下(丹田)に重心を置く。息をスーっと吐ききったら、今度は胴周りがビア樽(だる)のように膨らむイメージで思い切り息を吸う。吸いきったら2秒間停止。ゆっくり口から息を吐ききる。
これは腹筋と背筋を使った腹式呼吸。「声は体という楽器から出る」。おなかから体全体を使って声を出す。
腹式呼吸は副交感神経を優位にして、全身をリラックスさせる効果もあるそうだ。成功させたいプレゼンテーション、結婚式のスピーチの前などの緊張をほぐすのにもおすすめだ。
母音 しっかりと発音
四季の発声法の大きな特徴が「母音法」だ。アイウエオの5つの母音をきちんと発音すると、美しい日本語になる。
まず、あくびをしよう。大きく空気を吸って「ワアア~ッ」っと喉や口が最大限に広がった瞬間が「理想的な喉のフォーム」(青山さん)。
次に鏡を見て表の口の形を確認する。「俳優はあごが外れるほど大きく口を開けて練習する」。口の形を覚えたら秘伝の「レギュラー表」を実践しよう。「アイウエオ、イウエオア、ウエオアイ、エオアイウ、オアイウエ……」と発声する。
大きく息を吸い、ア行を一息で読み上げる。ア行の次はカ行に移り、ワ行まで。1音ごとにおなかをへこませ、口を大きく開いて声を出す。喉はあくびの状態を維持する。慣れてきたら一息で発音する行数を伸ばす。
色々な言葉を母音だけで発音する練習法もある。「はじめまして」なら「アイエアイエ」、「おはようございます」なら「オアオウオアイアウ」。これを繰り返すと、きれいな発音になる。
スピーチなどで原稿を読むときは「フレージング法」が役立つ。句切れを意識し、棒読みにならないようにすることだ。例えば自社の新商品を紹介したい場合、商品の優位点はどこなのか。聴かせどころををふまえて、そこまでどう持っていくかを考える。
まずは声に関心を持ち、理想に向かって5分だけでもトレーニングしよう。起床したらまず「大きく伸びをしながら、おなかから新鮮な空気を深呼吸する」(青山さん)のもおすすめ。その後、「アイウエオ、イウエオア……」。通勤中など気がついたときに口の形を練習するのもよい。
四季ではセリフの基本を習得するのに3年、歌が5年、ダンスが10年といわれる。誰でも何歳からでも、言葉は磨ける。自分の一番いい声を出そう。
(佐々木たくみ)
[日経プラスワン2013年12月28日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。