立て板に水という形容がふさわしい、話芸の達人であった。ひょっとしたら、もうすこし言いよどむようなところもあったほうが、よかったのかもしれない。そのほうが、深みもありそうに聞こえたような気はする。だが、滑舌にかける当人のプライドが、それをゆるさなかったのだろう。おしまれて引退するまで、流暢(りゅうちょう)な話術でおしきった。
当意即妙の機転にも、ひいでていたと思う。しばりの多いテレビの座談なども、波乗りのようにこなしてきた。だが、けっしてアドリブの才に、めぐまれていたわけではないと、著者は言う。話題に引き出しをふやし、またたもちつづける努力もあなどれないらしい。
講談や落語のような、型のある芸にはあこがれつづけていた。型なしの世界で頭角をあらわした芸人の、見はてぬ夢だったのだろうか。これは、上方芸能通で知られる著者が、上岡龍太郎自身と関係者に取材をかさねて書きあげた芸談である。
これだけの才人を、しかし活字の世界はきちんと評価してこなかった。人気の頂点にあって、自ら身をひいた理由は、そこにある。その可能性を示唆され、上岡のひそかな絶望へ、私は想(おも)いをはせる。
★★★★
(風俗史家 井上章一)
[日本経済新聞夕刊2013年12月25日付]
★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった
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